女子SPで全日本女王の坂本花織(18=シスメックス)が自己ベストの76・86点を記録し、2位発進した。冒頭の連続3回転ジャンプからミスなく、ガッツポーズ絞め。18年平昌五輪金メダルで82・08点の首位ザギトワ(ロシア)と5・22点差につけた。男女通じて日本勢初の初出場初優勝へ、22日のフリーに臨む。

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勢いよく突き上げた坂本の両拳を合図に、最上段まで埋まったアリーナの観衆が一斉に立ち上がった。四方八方で揺れる日の丸を見渡し、小刻みにうなずきながら見た自己最高得点。「国際大会で75点以上が出たのは初めて。うれしい」。会見でザギトワの右隣に座ると「自分の中でもいい方のショート(プログラム)ができて、点数は前の自分に勝てた。すごく満足しています」と口調や表情に初々しい硬さをのぞかせた。

猛練習は裏切らなかった。今季序盤にレベル3だった中盤のステップは、昨年12月のGPファイナル後に軌道まで変え、きっちりと最高のレベル4。武器のジャンプはフリップ-トーループの連続3回転成功に始まり、後半の3回転ループはジャッジ9人中7人が、出来栄えで最高の5点をモニターへと打ち込んだ。五輪前は1時間だった朝練も2時間半に伸ばし、細部まで磨き抜いた成果が出た。

1カ月前の4大陸選手権ではフリーのミスで4位に沈み「2日ぐらい落ち込んだままだった」。それでもフリーを振り付けるブノワ・リショー氏の「泣くな!」というメッセージ、中野園子コーチから度々伝えられる「嫌だったらやめてもいいよ。自分の人生だから。人のために滑る必要はないよ」という言葉に耳を傾けながら切り替えた。

今大会は高校生ラスト舞台。2月末に神戸野田高の卒業式を迎え、4月から神戸学院大へ進む。高3の夏休みには、部活動を引退した友人が海で遊ぶ写真をスマートフォン越しに見て「むっちゃ満喫しているやん!」とツッコミを入れた。猛練習のたたき上げで「一日中、完全にゆっくりできるのは年末年始ぐらい」。今季も大みそか、元日の2日間以外は滑り込み、海外遠征からの帰国日も、その足でリンクに向かった。

演技後に抱き合った中野コーチからは「頑張ってきて良かったね」と温かい声をかけられた。だが、まだ終わってはいない。SP2位から失速した4大陸選手権のリベンジは、フリーにかかる。「気持ちも、体調も、明後日まで維持できるようにしたい」。はっきりと見える五輪女王の背中を、全力で追う。【松本航】