悲願の、兄弟で世界へ-。4月の全日本選手権で2連覇を飾った谷川翔(20=順大)が、合計254・363点で初優勝を飾った。全日本の得点を持ち点に争われ、得意のあん馬で落下したが、その後は踏ん張って逃げ切った。2位には兄航(22)が巻き返し、そろって世界選手権(10月、ドイツ)代表入りを決めた。3位の萱和磨(22)までが切符をつかみ、残る2人は6月の全日本種目別選手権(群馬)後に決定する。

競技開始前の選手紹介では投げキッス、競技中にもテレビカメラにピース。緊張とは無縁と思われた谷川翔の本心があふれたのは、勝利者インタビューだった。「今日一日、本当に怖くて…」。声をつまらせ、涙を浮かべた。同じく全日本覇者として臨んだ昨年大会は最終種目の鉄棒で落下。首位から4位に転落し、世界代表を逃した。状況は相似。自然と怖さが生まれた。それをどう扱えるかが焦点だった。

そんな時、隣にいたのは兄だった。1種目目の床を終えると、カメラにピース。横にいた兄にも促すと、普段は寡黙な兄も応じてくれた。その姿に会場で見守った母は「翔だったからやったのかな。緊張しているのが分かったのかも」と心境をおもんぱかった。2人で幼少期から切磋(せっさ)してきた。堂々と闘い合うため、兄の小さな支援だった。

翔は続く得意のあん馬で落下も「まだリードはある」と気持ちは落とさない。「笑う門には福来る、です」という笑顔を続け、最後の鉄棒も昨年の二の舞いを演じずに着地。「最高だな」と歓喜に浸った。「この点数では戦えない」。昨年は団体総合で銅メダルに終わった世界選手権を、冷静に見やる。初代表だが、すでにエースの自覚を持ち、兄と挑む。【阿部健吾】

◆2年連続代表の兄航のコメント ライバルだし、翔がいなければ順位は1つ上がりますが、兄弟ですし、一緒に行きたかった。