レスリング女子でオリンピック(五輪)4連覇の伊調馨(35=ALSOK)が14日、東京都内で本紙の取材に応じ、来年の東京五輪行きがなくなった場合、9月にも現役引退する意向を示した。

世界選手権(9月14~22日、カザフスタン)代表をかけた6日のプレーオフでは、女子57キロ級で川井梨紗子(24)に負けた。川井が同選手権でメダルを獲得すれば、同級1枠の東京五輪代表に内定する。他階級での挑戦はせず、指導者を視野にマットを退く。

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全国が見守った2人の五輪女王による世界で最も過酷な五輪代表争い。6日のプレーオフから1週間、伊調はデリシャススマイル杯東日本大学女子選手権が行われた会場にいた。練習拠点とする日体大の現役選手たちのサポート役。試合の勝負時とは違う、温かな表情が浮かんだ。

川井に敗れた直後は、9月以降に言及することはなかった。この日、あらためて川井が東京五輪の代表に決まった場合は第一線を退くか問われると「そうなると思います」と明言した。62キロ級などで内定者が出ていない場合でも、「(他階級は)ないです」と断言。昨夏に2年ぶりの復帰を決め、この1年を戦い抜いた。プレーオフ直後にも「悔しいですが、悔いはない」と語ったが、気持ちは固まっているようだ。

この日は「指導者」の立場だった。復帰後に練習を共にし、時には技術指導もしてきた一回り以上したの大学生の戦いを見守った。「こういう大会は昔はなかった。どうしても試合数が少ないので、とても良いことだと思います」と、セコンドに座って助言する姿もあった。女子では随一の技術の持ち主はすでに後身へその技を教えている。9月に引退した場合は、まずは指導者となりそうだ。

日体大の松浪理事長は、引退後に同大の外部コーチとして招きたい意向で「選手は伊調選手から学んで強くなっている。力になってほしい」と述べた。伊調自身も「最近の女子はだんだんとレベルアップしている」と全体的な競技力向上を感じており、「技術面でもそうですけど、意識改革だったり考え方、取り組み方を教えられるように、自分も勉強しなくてはいけない」と見据える。

兄と姉の影響で、故郷青森で競技を始め、30年あまり。4度の五輪で頂点に立ち、国民栄誉賞を受賞した。昨夏の復帰後も、女子では異例のベテラン選手として競技者寿命の可能性も示した。川井とも戦い抜き、心残りはない。

川井が出場する世界選手権女子57キロ級は9月18日(1回戦~準決勝)、19日(敗者復活戦、決勝)に予定される。2カ月後、東京への道は閉じるかも知れない。いまはただ、審判の時を静かに待つ。【阿部健吾】

◆伊調馨(いちょう・かおり)1984年(昭59)6月13日、青森県八戸市生まれ。3歳の時にレスリングを始める。中京女大付高-中京女大(現至学館大)-ALSOK所属。初出場した02年世界選手権で優勝すると、以降は世界のトップに君臨。五輪4連覇。04年アテネ、08年北京大会で姉千春(ともに銀メダル)と連続姉妹メダル獲得にも成功。166センチ。