え、使うの? 使わないの? 男子100メートル背泳ぎ準決勝で、大会側はスタートの姿勢を補助する「バックストロークレッジ」を使わないことをいったん、決めた。同器具はよりよいスタートのために必要なものだが、2年に1度の世界一を決める大会で、異例の措置がとられた。

伏線は午前の予選にあった。入江陵介(29=イトマン東進)が、予選6組5レーンで登場して53秒38の2着で午後の準決勝進出。ただスタート台の下にある、足をかけて最初の姿勢を補助するバックストロークレッジに不備があって困惑。スタートが仕切り直しになるアクシデントがあった。「よくわかんないです。落ちるんです。力を加えたらズルンと」と証言。両手でひっぱると、ずれてしまったという。「女子から1組に1人ぐらいはあって。(スタートが)とまるなあ、と思っていたが。どこかであるだろうな、と構えていたら、まさか自分だったので」と困惑した。

入江はスタート前に必ずバックストロークレッジを両腕でひっぱって、固定されているか、確かめるという。今大会初レースを前にがちゃがちゃと確かめていたが、係員に「ひっぱるな」と言われたという。「いやいや、すべったらどうする?」とびっくり。五輪3大会連続出場のベテランは「今までこういうことはないので、改善してほしい。この大会でひたすら起きているのは機械のズレがあるからだと思う」と話した。

このアクシデントは他の組でも発生。最終の予選7組に入っていたイタリア選手はアクシデントの影響で、同組の終了後に1人だけで泳いでタイムを計測。さらに2種目後の男子200メートル自由形予選の途中に、再びトリニダード・トバゴ選手が1人で泳いで、タイムを計測。2人は準決勝進出の16位以内のタイムを出した。2人の選手がはじかれた形だが、大会側は準決勝2組を通常の16人ではなく、18人で行う形を決定。予選17位、18位の選手はそれぞれ「0レーン」に入った。スポーツの根幹である「公平性」に影響するアクシデントだけに、後味の悪さが残る予選となった。

複数の器具で不具合があるために準決勝は全員が同じ条件という形をとるためにすべて外した形。しかし同器具はタイムに影響するために、世界記録などを狙うトップ選手にとっては釈然としない処置といえる。

大会側はその後、決定を覆して、バックストロークレッジを固定した状態で採用することを決めた。二転三転する方針は、大会側の不手際による混乱の現れでもあるが、大事なレースを前にした選手に余計な心配を与える形になる。また同器具は本来、選手が自分の高さに合わせて調節して使用するものだけに、苦肉の策となった。

世界一を決める同種目決勝は、23日夜に行われる。