【ヌルスルタン=阿部健吾】女子57キロ級で川井梨紗子(24=ジャパンビバレッジ)が決勝進出を決め、日本協会が定める東京五輪内定条件を満たした。

準決勝では最後まで攻めきる本来のスタイルを徹底。代表を争った五輪4連覇の伊調馨との4年間にわたる巡り合いに思いをはせ、成長も感じ、五輪2連覇に挑む。

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五輪金メダリスト2人をめぐる運命を踏破しきった。大会前から川井梨の心に浮かんだのは、4年前の光景。東京行きを決めると、紅潮した顔で感慨深く語り出した。「15年の世界選手権を思い出しながらここにきて、立ち位置もすごく代わり、でも4年後こうやってできることに幸せを感じるんです」。その心根の登場人物は自分、もう1人は伊調だ。「馨さんに勝って五輪に出たいと思っていたので…」。

15年大会、58キロ級でリオ五輪代表を争いたかった。だが、周囲が63キロ級への転向を勧め、涙に暮れて世界舞台に上がった。対戦相手未知のぶっつけ本番で2位。それは57キロ級に初参加の今回と同様。そしてこの日も、同じく勝ち進んだ。

初戦は38秒で快勝、危なげなく進む。出色は準決勝。170センチ近い変則スタイルのアデクオロイ(ナイジェリア)に劣勢で折り返した第2ピリオドは「足が長くて構えが高い。両足タックルいける」と分析通りの猛烈タックル連発。最後まで緩まず、「攻めれた自分は成長できた」と誇った。

成長、それを実感させてくれたのは伊調だった。7月のプレーオフを振り返り、「馨さんに勝ちたい気持ちで58キロ級で戦っていた時の注目度とは全く違かったですよね」。急きょ生中継が決まり、全国の耳目を集めた。小学生の時、アテネ五輪で金メダリストになる直前の伊調と一緒に記念写真を撮った。歳月は過ぎ、涙で階級を変え、リオで金を取った。「だから、自分への注目と、馨さんがここまで続けていたこと、どちらもないとなしえない試合だった」。後にも先にもない交錯。「貴重で幸せ」。そう語れる、それが死闘をへて加わった強さだった。

4年前の大会は2位だった。結果で成長を知るには? 「おめでとうは明日まで取っておいてくれたら、うれしいです」。それが、新たな川井梨紗子だけの運命の始まりになる。

○…川井梨が決勝に進出して東京五輪切符をつかんだことで、35歳の伊調馨は同階級での五輪出場の道が絶たれた。プレーオフ直後には「やるべきことをやったので、悔しいけど悔いはないです」と回答。階級変更には否定的な見解を示しており、7月には可能性が消えた場合には第一線を退くか聞かれ、「そうなると思う」と答えた。所属先などによると、いま時点では今後については話し合っていないという。