ラグビーワールドカップ(W杯)日本大会で初のベスト8に進出した日本代表のプロップで、新潟市出身の稲垣啓太(29)が20日、新潟市に凱旋(がいせん)した。地元の新潟市秋葉区の関係各所、ラグビーを始めた母校・新潟工など10カ所を回るハードスケジュール。行き先々での大歓迎に丁寧に対応、W杯での声援への感謝を述べ、23年フランス大会での健闘を誓った。

“笑わない男”の表情が完全に緩むことはなかった。ただ、内面の笑顔指数は100%だった。「どこへ行っても温かい言葉ばかり。自分たちだけで勝ち取ったベスト8ではなく、みなさんの応援のおかげだと改めて思いました」。トレードマークともいえるこわもての裏は故郷への感謝で満ちていた。

この日は分刻みのスケジュール。午前9時に地元の新潟市秋葉区の区役所を訪問したのを皮切りに10カ所を回った。午後7時過ぎから始まった県ラグビー協会主催のパーティー終了まで約12時間、故郷行脚を敢行。秋葉区を中心に幼稚園からすべての母校を回った。

新津第二中では県中学選抜のプロップ、窪田龍紀さん(3年)とステージ上で腕相撲。窪田さんから「新潟工でラグビーをしたいと思っています」と言われると、「新潟工に教えに行くよ」と返した。荻川小では生徒から手作りのメダルを授与され「子どもの言葉は力になりますね」と思わず口角を上げた。

新潟工では「稲垣先輩 感動をありがとう」と題した歓迎会が行われた。体育館に入場すると全校生徒870人の大拍手で迎えられた。約40分間の講演、質疑応答の後、退場する際には日本代表のチームソング「ビクトリーロード」の大合唱を生徒から受けた。

新潟工には天然芝のラグビー場をつくるため300万円を寄付。9月8日にそのグラウンドの完成式に出席して以来の新潟入りだった。「自分の原点」という母校の後輩たちは全国大会(12月27日開幕、花園ラグビー場)に16大会連続44回目の出場を決めた。「悔いのない試合をしてほしい」とシンプルで力強いメッセージを送った。

秋葉区役所で新潟市スポーツ大賞特別賞、新潟県庁で新潟県スポーツ賞の表彰を受けた。多くの県民の思いが込められている。「W杯の期間中も、新潟からの声援はいつも届いていました。力になりました」。その感謝を直接伝えた1日は、今後の糧に。「23年フランス大会でも応援されるように頑張る」。故郷の温かさに触れ、視線を4年後に向けた。【斎藤慎一郎】