【トリノ(イタリア)6日=佐々木隆史】3年ぶりのグランプリ(GP)ファイナル出場で男女を通じて史上初、5度目の優勝を目指す羽生結弦(ANA)が夢のプログラムで逆転優勝を狙う。

7日のフリーに向けて本番会場で公式練習。試合で成功すれば現行ルールでは初となる、4回転4種5本の構成で臨む構え。さらに、公式練習で初めて、前代未聞のクワッドアクセル(4回転半ジャンプ)に挑むなど気合十分。7日は25歳の誕生日。12・95点差で追いかけるショートプログラム首位ネーサン・チェン(米国)を大逆転し、Vで記念日を自ら祝う。

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25歳の誕生日の大逆転優勝へ、羽生が並々ならぬ思いを氷上で示した。曲かけ練習の前に、3日連続で4回転ルッツを着氷させた。17年10月ロシア杯で初成功したが、同年11月のNHK杯の練習中に失敗して負傷した大技。けがのリスクを考慮した2年間の封印を、フリーに組み込んで、解き放とうとしている。

圧巻はフリー「Origin」の曲かけ練習。冒頭、4回転ループを跳び、2本目の4回転ルッツは転倒。その後4回転サルコーを決め、1本目の4回転トーループの連続ジャンプは跳んだ瞬間に回転がほどけたが、2本目の4回転トーループの連続ジャンプは成功。フリーでのジャンプ数が8本から7本にルール変更された現行ルールの18年度以降、初めてとなる4回転ジャンプ4種5本の構成で臨むことをにおわせた。会場を出る際には「そのつもりでやります」と言葉に力を込めた。

公式練習終盤には、さらに異様な空気が流れた。羽生は明らかに大きく、アクセル(1回転半ジャンプ)を何度も跳んだ。そして、意を決したかのように勢いよく跳ぶと激しく転倒した。見慣れない回転数に、ざわつく会場。3連続で挑んだが全て転倒。それこそ、前人未到のクワッドアクセル(4回転半ジャンプ)。「4回転半は」と問われると「ただ練習してただけです」とさらりと言った。フリー投入はまだなさそうだが、これまで公式の場では1度も挑戦したことがなかった。逆転Vへ、揺るがぬ決意の現れにも映った。

SPでは4回転の連続ジャンプでミスし、今季自己最低点で、まさかの大差2位発進。首位チェンとの差は12・95点。過去の逆転優勝でもないほどに開いた。SP後には「悔しいって言っててもしょうがない。これから、この1分1秒をどうやって過ごすかというのを、いろいろ計算しながら、計画立てながらいきたい」と話していた。その言葉通り、一夜で逆転への夢プランをはじき出した。ともに練習したチェンの前で、勝利への貪欲さを見せた。

25歳の誕生日に迎える運命のフリー。憧れのプルシェンコ氏(ロシア)が、06年トリノ五輪で金メダルを獲得した同じ会場で、新たな伝説を作ろうとしている。「ベスト尽くして、笑顔で終われればいいなと思います」との言葉とは裏腹に、燃えたぎるような思いを体現。五輪王者の意地と誇りを、全力でぶつける。

◆4回転ルッツ ルッツジャンプは右つま先をついて、左足の刃の後方外側で跳び上がる。4回転の基礎点では6種類中2番目に高い11・5点。4回転半(アクセル)は世界で成功例がないため、現時点で最高難度のジャンプといえる。羽生は17年10月の中国杯で初めて成功した。その他の現役選手では金博洋(中国)ネーサン・チェン(米国)らが成功している。女子では紀平のライバル、アレクサンドラ・トルソワ、アンナ・シェルバコワ(ともにロシア)が跳ぶ。