【トリノ(イタリア)8日=佐々木隆史】五輪2連覇の王者が、前代未聞の大技の今シーズン中の完成を誓った。グランプリ(GP)ファイナルで2位だった羽生結弦(25=ANA)が、エキシビションが行われた会場で一夜明け会見を行った。

試合期間中の公式練習で、公の場初挑戦となったクワッドアクセル(4回転半)について、出場が濃厚な来年3月の世界選手権(カナダ)での投入を示唆した。

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フリーで現行ルール世界初となる4種5本の4回転ジャンプを跳んだ羽生の頭の中には、すでに新たな戦略が浮かんでいた。来年3月の世界選手権でのクワッドアクセル投入を問われると「はい。頑張ります。そのつもりで」と即答。浮かべた表情は明るかった。

その時は突如訪れた。2位発進したショートプログラム(SP)翌日の6日。公式練習で突然、クワッドアクセルに3度挑戦した。全て転倒したが、公の場での初挑戦に色めき立った会場。12・95点差で追いかけるチェン(米国)の前での、衝撃的な練習だった。「正直なことを言うと、ショートが終わった後に絶望していた。ネーサンもフリーで4回転を5回跳んでくるのは分かっていた。でもこの絶望的な状況の中で、何かを残さないといけない使命感がすごくあった」と挑戦の理由を明かした。

今試合の会場は、憧れのエフゲニー・プルシェンコ氏(ロシア)が金メダルを獲得した06年トリノ五輪と同じ舞台。憧れの舞台がゆえに、このままでは終われない気持ちが強かった。「フリーであの(4回転ジャンプ4種5本の)構成で、完璧なノーミスをすることは不可能に近かったと思う。それに懸けて勝てないのだったら、ここでやるべきことやろうよって。ここでアクセルを完成させたいって気持ちでした」。練習とはいえ、何が何でも成功させたかった。

当時は「ただやっていただけです」と本番投入は否定。この日は、世界選手権での投入に明確な意欲を見せた。4回転半の完成は容易ではなく、演技全体にかかる負担も大きい。ジャンプとスケーティングの両立の難しさは本人も重々承知している。それでも「自分にとって4回転アクセル、4回転半というのは王様のジャンプ。それをやった上でフィギュアスケーターとして完成させられるものにしたい気持ちは強いです」と意気込んだ。

今後のスケート人生に、多大な影響を与えた3年ぶりのGPファイナル。五輪2連覇の王者が夢のアクセルをひっさげ、3カ月後の大舞台で世界を驚かす。