苦しむ王者へ、決して見せてはいけない隙だった。前半4分に先制し、7-3で迎えた16分。敵陣でFB松島幸太朗が防御網を突破してパスを選択。ボールを受け、左隅でWTBテビタ・リーが加速するまでは1週間の準備通りだった。相手を振り切り、インゴール手前で歓喜のダイブ。12-3と点差を広げたはずが、ビデオ判定のポーズをとる戸田京介主審が試合を止めた。

超満員の2万6312人は、大型スクリーンにVTRが流れると騒々しくなった。追走を振り切り、胸から地面についたリーは、その衝撃でボールを離してしまっていた。判定はノックオン。その後、20分にSO田村煕のPGで3点を追加したが、息を吹き返した相手に4トライを許した。松島は正直な思いを口にした。

「あそこで流れは結構変わった。そこで(トライを)取っていれば、チームとして自信をつけていけた」

神戸製鋼には昨季の決勝で5-55と完敗。19年ワールドカップ(W杯)日本大会でジョージア代表を率いたヘイグ新監督の下、ボールを保持しながらの攻撃を磨いてきた。80分間で相手は2度のシンビン(10分間の一時退場)となり、数的有利にもなった。点差は詰まったものの覆せず、SH流大は「神戸は隙がなかった。我慢比べに負けた。細かいところの差が出た」と冷静に敗因を挙げた。

開幕節は東芝に19-26で敗れ、今季2敗目。優勝争いからの出遅れは否めない。それでも後半42分に途中出場のSOマット・ギタウがPGを決め、7点差以内の敗戦によるボーナスポイントはつかんだ。流は「これから少しずつ成長して、粘り強く戦いたい」。シーズンはまだ5分の1。巻き返す余地は十分にある。【松本航】