新型コロナウイルスの影響でフィギュアスケートの世界選手権(3月、カナダ・モントリオール)が中止となった。唐突な形で迎えた今季の主要大会終了。本日から2日間は、喜怒哀楽のあったシーズンを振り返る。前編は10年バンクーバー五輪代表の小塚崇彦氏(31)が、日本男子選手を総括。試合への準備を料理(下記の(1)~(6))に例え、来季へのポイントを示した。

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◆小塚氏が考えるフィギュアスケートの準備◆

順 料理での例え→スケートでの段階

(1) 買い物をする店選び→コーチに出会う/振付師とコンビを組む

(2) 店での具材集め→新たな技術を習得/未知のジャンルや曲に挑戦

(3) だしを取る→技術の質を高める/音楽表現の深みを追求する

(4) 具材を投入する→技術とプログラムを融合させる

(5) 味の調整をする→試合に向けて調整する

(6) 料理を提供する→試合で演技を披露する

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スケートの準備というのは、料理((1)~(6))に例えられると思います。時には進み、時には戻る。各選手の立ち位置、時期に合わせて必要なものがあり、オフも作業は続きます。

◆羽生結弦(2月の4大陸選手権で初優勝。18年平昌五輪金メダル時のプログラムへ2年ぶりに戻した)

言うまでもなく、成熟されています。プログラム変更で一度、(4)の段階へ戻りましたが、すでにおいしい具材と良質なだしを持ち合わせています。右を選ぶか、左を選ぶかは「好みの問題」という次元。そこに向き合い、羽生選手が言う「自分らしく滑りたい」という決断にたどり着いたのでしょう。どう今後につなげていくのかが楽しみです。

◆宇野昌磨(昨年12月の全日本選手権で4連覇。前半は苦しんだが、年明けにステファン・ランビエル氏がメインコーチへ就任)

羽生選手や米国のチェン選手と同じく、元々(6)までの経験が豊富。今季は(1)まで戻る難しい1年でしたが、世界選手権に向けて右肩上がりで(5)(6)に集中していました。今季迷って、苦しんだ経験は強みになる。来季は演目を変更するとすれば、ステファンの色と融合させて(2)から進んでいきます。これまで以上に深みのある、宇野選手を見られる期待感があります。

◆鍵山優真(シニアに交じった4大陸選手権で3位、世界ジュニア選手権2位。来季シニアへ転向予定)

スケーティングや総合力で、シニアのトップレベルにかなり近い。来季も思い切りの良さを出してほしいです。ただ「思い切り」と「慢心」は違います。ジュニア選手としては(6)までいきましたが、オフに再度(3)を振り返ることが、シニアのトップで長く活躍するために必要だと思います。例えばジャンプ直前の入り方を工夫する。他にもつなぎの部分にこだわることで、演目が単調になることなく、作品として流れていきます。得点をさらに伸ばす質の高い技術を持つことで、(4)の深みが増すでしょう。

◆佐藤駿(昨年12月のジュニアグランプリファイナル優勝。来季シニア予定)

4回転ルッツも成功させているジャンプは、成熟してきています。ポイントはスケーティング。オフは(3)へ向き合えば、さらに成長が見込めます。私もジュニアで世界一になれましたが、シニア1年目は戦う準備ができていなかった。「点数を出そう」と気負って、ミスをしました。鍵山選手、佐藤選手の2人は「ジュニアでこれだけできた。大丈夫」ではなく、より高みを目指してほしいです。