世界のテニス界が瀕死(ひんし)の状態だ。1日、4大大会の1つで、6月29日に開幕予定だったウィンブルドン(英国ロンドン)が中止を発表。新型コロナウイルスの感染拡大の前に陥落した。ウィンブルドンが中止に追い込まれるのは、戦争以外では初めてで、40~45年に中止して以来のこととなる。大会男子最多8回の優勝を誇るフェデラー(スイス)は「非常にショック」と、自身のSNSで心境を明かした。

それだけではない。男子のATP(男子プロテニス協会)ツアー、女子のWTA(女子テニス協会)ツアーに加え、ツアー下部大会、ジュニア、車いすテニスの世界ツアーは6月7日まで中断予定だった。しかし、その期間が7月12日まで延長された。

20年のテニスの世界ツアーは、4大大会を頂点に、男子は30カ国67大会、女子は27カ国59大会が予定されていた。しかし、その内、すでに男子は21大会、女子は20大会が中止か延期に追い込まれた。4大大会は1月の全豪が開催されただけで、全仏は9月に延期、ウィンブルドンは中止だ。

実は、世界のテニス大会は、世界ランキングのポイントを獲得できる大会だけで、男女で年間約1500大会が行われている。4大大会を頂点に、最も小規模では賞金総額1万5000ドル(約165万円)まで、大別すると4段階のレベルに分かれる。そのレベルすべての大会が、現在、7月12日まで中断しているのだ。

世界ランキングの保持者は、男子で約2000人、女子で約1300人ほどだ。その内、賞金だけで年間10万ドル(約1100万円)以上を稼ぐのは男子で約130人、女子で約220人。このあたりが、生活できるレベルだろう。世界ランカーの約10~20%でしかない。

大会も、賞金総額50万ドル(約5500万円)ほどの最も小さなツアー大会で、開催経費は数億円に上る。それをスポンサー料、入場料、放映権料などで補う。ツアーでも10大会以上が赤字だという関係者もいる。財政破綻する大会が出てくるとも限らない。

世界ツアーは、例年、男子は11月中旬から約1カ月半、女子は11月上旬から約2カ月ほど、短いオフがある。ATP、WTA、国際テニス連盟(ITF)は、その間を使い、ツアー全体を後ろに送り、せめてメジャー大会だけは開催しようと調整中だという。

しかし、それも限界がある。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を見ると、今季のツアー再開は難しいだろう。ツアーの主戦場である米国、スペイン、イタリア、フランス、英国などが、世界でも有数の感染国となっているのだ。

プロテニス選手の約80%が食いぶちをなくし、大会も破産を免れない窮地に立つ。プロ選手に大会が門戸を開いたのが68年。そして、男子は70年に、女子は73年に現行の世界ツアーができた。テニスを支えてきた基盤が、最大のピンチを迎えている。【吉松忠弘】