12月27日から大阪・花園ラグビー場で行われる全国高校ラグビー大会は第100回を迎え、すでに9月から各県の予選がスタートしている。今年の全国大会は記念大会として、例年より12校多い63校が参加。近年は私立全盛の時代が続くが、出場のチャンスが増えた公立進学校に焦点を当て、3回にわたり連載する。第1回は前回大会6年ぶりに出場、花園初勝利を挙げ、3回戦に進出した埼玉県立浦和高校を紹介する。

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前回大会は創部74年目での初勝利だけでなく、2勝目を挙げた。今年元日の3回戦では約5000人の大応援団の中、優勝した桐蔭学園(神奈川)と対戦。歴史を残し、OBらの反響も大きかったが、山本義明監督は「余韻に浸る時間はなかった」と話す。祝勝会などのセレモニーはあったものの、2週間後には新人戦がスタート。チーム作りができず、準決勝で敗退した。チーム立て直しを図ろうとしたが、その後コロナ禍により試合どころか練習もできない状況になった。

中学からのラグビー経験者は各学年1人だけで、ほぼ全員が初心者。「花園の経験を1度だけで終わらせたくない」。入学式が6月となり、常勝軍団を作ろうとする県立浦和にとって、1年生の勧誘がほとんどできないことが懸念だったが、なんと未経験者28人が入部。フッカー山際毅雅主将(3年)は「花園で勝ったことが大きかった」と話す。昨年9月のW杯日本大会での日本代表の活躍もあって、多くの部員獲得に成功した。

もちろん山際自身も少ない時間で勧誘に尽力した。SNSのアカウントを作り、PR動画を作成。「少しでも不安を取り除いてあげたかった」と練習内容や、学業との両立など、アプローチがあった生徒からの質問にていねいに答え、ラグビー部の魅力を伝えた。

校訓は文武両道を意味する「尚文昌武」。全員が大学受験を控え、冬場の部活動が、その後の人生にも大きく影響する。偏差値74の進学校ながら浪人する生徒もいるが、山際は「一生に1度の経験。諦めたら終わり」と今はラグビーに集中し、花園を終えてから切り替える。

9月16日には湘南(神奈川)との定期戦を行った。さらに、今年はコロナで中止となったが、日比谷(東京)、県千葉とは毎年東大グラウンドで試合を行っている。都県内有数の公立校としてスポーツでも勉学でもトップを目指す高校同士、同じグラウンドで汗を流す。山際も「お互いに刺激を受けている」と目標への士気を高め合っている。

部活を終えた後には毎日教室に残って自習する伝統は昔から変わらない。そんな生徒たちにとって、コロナ禍での自粛期間はプラスに働いた。山際は「勉強の時間が増え、有意義に過ごすことができた」と話す。授業を受けられない不安よりも、苦手科目の強化ができたことで、成績が伸びる生徒も増えたという。

もちろんトレーニングも怠らなかった。自粛期間に入った直後に選手間で話し合い、オンラインでのメニューを決定。毎日練習の様子を動画に撮り、みんなで共有した。バックスリーダーのSO安藤核(3年)は「1人だとやらない人も出てくる。共有すれば、お互いに刺激になる」と効果を口にした。

初戦は10月11日。山際は「目標は2年連続の花園に出て、シード校を倒すこと」と意気込んだ。大きな経験を経て、たくましくなった初心者集団は、ラグビーでも勉強でも頂点を取りにいく。【松熊洋介】

◆埼玉県立浦和高校 1895年(明28)に埼玉県第一尋常中学校として創立。ラグビー部は1946年創部で全国高校ラグビー大会出場は3度。文武両道を教育理念に掲げ、今年の東大合格者数は33人(現役15人)。主なOBにフリーアナウンサー堀尾正明、Jリーグの村井満チェアマン、宇宙飛行士の若田光一氏ら。生徒数男子1084人。所在地はさいたま市浦和区領家5の3の3。水石明彦校長。