高梨沙羅ついにW杯50勝「ホッと」笑顔戻った

<W杯スキー:ジャンプ女子>◇個人第12戦◇29日◇ルーマニア・ルシュノブ(ヒルサイズ=HS100メートル)

 個人総合で首位に立つ高梨沙羅(20=クラレ)が、2回合計247・3点で6戦ぶりに優勝し、節目のW杯通算50勝に到達した。1回目に96メートルで2位につけ、2回目は最長不倒の97・5メートルをマークして逆転した。ルーマニアに渡る直前の日本4連戦で未勝利、前日28日の第11戦も2位にとどまったが、ようやく大台に届いた。スキー競技のW杯で50勝以上は12人目。18年平昌五輪金メダルを目指す女王が、W杯参戦6季目で新たなステージに上がった。

 やっと、やっと、やっと、大台に届いた。高梨は「6度目の正直」で通算50勝目を挙げた。1回目に96メートルを飛び2位で折り返した。ほぼ無風の2回目は、抜群の飛び出しから瞬時に空中姿勢を作り、最長不倒となる97・5メートル。ヒルサイズにあと2・5メートルと迫るジャンプで最後に飛ぶ好調のルンビー(ノルウェー)に重圧をかけ、逆転勝利を呼び込んだ。ようやく定位置に座り「50勝を迎えられてホッとしている。最後のジャンプはここにきて一番良いジャンプだった」と笑顔も戻ってきた。

 生みの苦しみだった。得意のはずだった札幌(14、15日)、蔵王(20、21日)の日本4連戦は2位が2度あったとはいえ、未勝利に終わり、らしさが影を潜めた。普段あまり数字を気にしないが、珍しく「日本で50勝したい」と漏らし、期待が重圧となって精彩を欠いた。

 ただ、手をこまねいてばかりではなかった。21日の蔵王大会後、都内に戻り、欧州遠征出発の25日までトレーニングを重ね、再調整した。前日の第11戦では2位に甘んじたものの、2回目は98メートルを飛び復調気配を示していた。その中で節目の勝利をつかみ「試合を重ねて徐々に良い方向にもっていければ」と声のトーンも上がった。

 スキー競技でのW杯50勝はアルペンで「爆弾男」の異名を持つアルベルト・トンバ(イタリア)に並ぶ。高梨はジャンプ女子のW杯が始まった11~12年シーズンから参戦し、6季目の個人戦85試合目で到達。過去11人しかいなかったゾーンに入った。ジャンプ界では、「鳥人」と呼ばれた名選手マッチ・ニッカネン(フィンランド)の46勝を12月に抜き去り、男女を通じて最多53勝のグレゴア・シュリーレンツァウアー(オーストリア)まであと3つ。以前から男子との記録を比較されると「土俵が違うので」と恐縮しながら「偉大な選手と並べてもらえるのは光栄」と語ってきたが、20歳にして自らが歴史的な選手になりつつある。

 14~15年シーズンに6試合続けて勝てなかったことがあった。その時も同じルシュノブで優勝し、悪い流れを断ち切った。今季最大目標となる2月の世界選手権(フィンランド)へ、軌道修正。日本が誇る女王は、新たな領域に踏み出していく。

 ◆高梨沙羅(たかなし・さら)1996年(平8)10月8日、北海道・上川町生まれ。上川小2年でジャンプを始める。女子W杯が始まった11~12年シーズンにW杯初優勝。13年世界選手権では、混合団体で金、個人で銀メダルを獲得。14年ソチ五輪は4位。W杯個人総合を3度制している。家族は両親と兄。152センチ、44キロ。