高梨沙羅、20歳から本格的に始めた化粧も「力」に

W杯53勝目を挙げた高梨は日の丸を掲げて笑顔を見せる(撮影・山崎安昭)

<W杯スキー:ジャンプ女子>◇個人第18戦◇16日◇韓国・平昌(ヒルサイズ=HS109メートル)

 女子の高梨沙羅(20=クラレ)がW杯通算53勝目を挙げ、男子のグレゴア・シュリーレンツァウアー(オーストリア)が持つジャンプの歴代最多記録に並んだ。99・5メートル、97メートルの合計215・1点で1回目の2位から逆転し、今季9勝目。計6シーズン、出場89試合目で大記録に到達し、18年平昌五輪の舞台で金メダル獲得に弾みをつけた。前日15日に2季連続4度目の個人総合優勝を決めたW杯の次戦は3月12日のオスロ大会。優勝すれば男女を通じて単独最多の54勝となる。

 信じられなかった。優勝が決まり、周囲に声をかけられると高梨は「えっ」と、驚きの表情を浮かべた。逆転を狙った2回目は97メートルにとどまっただけに本人には意外だった。最多タイの通算53勝目でジャンプ界の頂点に肩を並べたが、「やっぱり(男子とは)舞台が違うのでレベルも違うし、一概にそれがすごいことなのかと自分の中でも複雑。それでも、こういう記録を出せたのは自信になる」と笑顔は控えめだった。

 強い風が不安定に吹き荒れていた。1回目に99・5メートルで2位。2回目も状況は変わらず、飛びすぎを避けるために直前でスタートゲートを2段下げられた。厳しい条件の中、空中に飛び出すと風にあおられたが、バランスを取りながら持ちこたえて97メートルで着地した。滑走面の抵抗を減らすためにスキーを替え、2位に終わった前日に「助走速度が出なくなった」と挙げた課題も改善。修正能力の高さを示し、大記録を引き寄せた。

 今季は身も心も「大人」になった。以前は競技中、怖いぐらいに集中していた。コーチ陣が声をかけても聞こえないぐらいで、周囲に「気づけなかったらすいません」とあらかじめ伝えるほどだった。だが、その集中力はもろ刃の剣だった。4位に終わった14年ソチ五輪ではジャンプに微妙なズレが生じたが、周囲の声が耳に入らなかった。「余裕がなかった」。五輪後、変化を求めた。競技中でも他の選手の動きを観察し「参考になることがいっぱいある」と気づく。自身を客観視できるようになった。

 20歳になって本格的に始めた化粧も「変化」の1つだ。30分早く起きて念入りに行い、気持ちをリフレッシュする。オンとオフを使い分けられるようになって対応力が上がった。山田コーチが「最近はどんな時でも余裕がある」と話すように、大会中あまり見られなかった笑顔が、今季は多く見られるようになった。

 22日開幕の世界選手権(フィンランド・ラハティ)では、まだ個人戦で金メダルがない。来年の五輪に向けても、どうしても手にしたいタイトルだ。「いい方向に行きつつあるので、やるべきことに集中して準備を進めていきたい」。新たな勲章を手にした女王が世界の頂を極めにいく。

 ◆高梨沙羅(たかなし・さら)1996年(平8)10月8日生まれ、北海道上川町出身。15歳だった12年3月にW杯初勝利を挙げ、12~13年シーズンに史上最年少でW杯個人総合制覇。今季も2季連続となる4度目の総合優勝。ソチ五輪は4位。日体大3年。152センチ、44キロ。