フィギュアスケート女子の１０年バンクーバー五輪銀メダリストの浅田真央（２６＝中京大）が１０日、自身のブログで現役引退を表明した。１４年ソチ五輪シーズン後に１年間の休養。１８年平昌五輪を目指し、１５年１０月に復帰したが、今季は左膝のけがもあり、不調に苦しんだ。昨年末の日本選手権では、今季初めて最大の武器であるトリプルアクセル（３回転半ジャンプ）に２度挑んだが、失敗。その後「気力もなくなりました」と説明した。関係者によると明日１２日にも都内で記者会見を開く見通しだ。

　思えばあれが浅田ができる精いっぱいの、最高の演技だったのではないだろうか。自己ワーストの１２位に終わった１２月の全日本選手権フリー。今季、左膝痛のため避けていたトリプルアクセルを含む、８本の３回転ジャンプに挑もうとした。１４２・７１点の自己ベストを出したソチ五輪と同じ。浅田が何度も繰り返してきた「自分ができる最高のプログラム」だった。だが、冒頭のトリプルアクセルで転倒した。８つの３回転のうち減点がなかったのは２つだけ。結果は１１４・１０点だった。

　演技直後、浅田は、来季もやるかとの報道陣の問いに「そうですね。はい」と答えていた。一方で「現状維持ではなくて、最高レベルの演技にチャレンジできたことに満足しています」と話した。自分がやりたい挑戦をできた喜びと同時に、それを出来ない事実を突きつけられた試合だった。

　自らの不調と、女子のレベルアップと若手の追い上げ。苦しい状況の中、トリプルアクセルが心の支えだった。跳べば左膝痛が悪化する。そのために今季は封印してきたが、９位に終わり、涙を流したＧＰフランス杯後、全日本選手権でトリプルアクセルを入れる練習を始めた。「止めるほうが大変だった」と関係者は漏らしていた。膝の症状の悪化も考えられる中、それでも強行したのは、浅田の思いを優先したからだ。佐藤コーチは「心がなえないよう、彼女のやる気を優先させた」と話していた。全日本選手権の直前には急きょトレーナーを呼び寄せていた。跳ぶこと、自分の最高の演技に挑戦することが何より大事だった。

　全日本選手権から一夜明け、「少し休みたいです」と笑う浅田の表情はすがすがしかった。その時に、引退の気持ちは決まっていたのかもしれない。１０度目の世界選手権を含む、代表の切符を何も得られず、スケート人生で初めて訪れた３カ月の「白紙」の期間。その中で悩み「自分にとって大きな決断」を下した。

　１０日午後１０時５１分。約２カ月ぶりに更新したブログで「去年の全日本選手権を終えた後、それまでの自分を支えてきた目標が消え、選手として続ける自分の気力もなくなりました」とつづり、現役引退を表明した。【高場泉穂】