浅田真央悔いなし 生まれ変わるならスケートはない

引退会見の最後のあいさつで感極まり、思わず報道陣に背を向け、涙をぬぐう浅田(撮影・狩俣裕三)

 自分らしく、最後まで頑固を貫いた。10日に現役引退を発表したフィギュアスケート女子の浅田真央(26)が12日、都内で会見し、引退の理由を語った。「自分の強さ」の象徴でもあるトリプルアクセル挑戦を貫き、自己ワーストの12位に終わった全日本選手権が引退を決める大きな理由だったと明かした。涙をこらえ、笑顔で競技生活に別れを告げた。

 会見を締める最後のあいさつ。「晴れやかな気持ちで引退を迎えることができました…」。ここまで言うと、浅田が声を詰まらせた。涙が出そうになるとたまらず、約430人の報道陣に背を向けた。再び前を向くが涙があふれ、後ろを向く。右手で涙をふき、「はい」と笑顔でまた振り返った。「泣いちゃダメだ」と、涙ながらに笑った14年ソチ五輪のフリーと同じ。最後は笑顔で終わりたかった。

 なぜ引退を決めたのか。その理由を自らの口で明かした。伝説のフリーを演じたソチ五輪直後、世界選手権女王に返り咲き、1年の休養。「戻るのは厳しいよ」と佐藤信夫コーチ(75)から諭されても頑として聞かず、15~16年シーズンに復帰。だが、現実に直面した。腰痛に加え、シーズン終盤に左膝を痛めた。スケーティングも表現力もうまさを増していたが、ジャンプをそろえなければ、点数はついてこない。近い関係者に「どうして評価してもらえないのか」とこぼすこともあった。「復帰する前よりつらかった」。

 それでも、復帰したときに決めた平昌五輪の夢があった。今季、膝を守るため、トリプルアクセルを封印した。解禁したのは、昨年12月の全日本選手権。直前まで、1度もきれいに跳べていなかった。それでも急きょ数日前にトレーナーを呼び寄せていた。SP8位で迎えたフリーの日。本番から5時間半前、浅田はもう赤い口紅をひいていた。音楽を聴きながら鋭い目つきで会場入り。「何がなんでもまわりきる」と心に決めていた。頑固な浅田の姿が戻っていた。

 トリプルアクセルを含む「自分らしい」フリーを演じたが、自己最悪の総合12位。その得点を見た時「もういいかもしれないと思った。12歳から出場して一番、残念な結果で終わってしまった。決断に至るにあたって、1つの大きな出来事だった」と明かした。それから2カ月。「言ったことは今までやり通してきたので、(諦めることへの)葛藤がずっとあった」。でも、戦う気力は戻らなかった。体力、気力ともに出し切った全日本選手権後「疲れ切っていた」と関係者は明かす。だからこそ、ここで終えても「悔いはない」と決断できた。

 世界選手権は3度、全日本選手権は6度も制した一方、2度の五輪は銀と6位。キャリアで唯一、五輪タイトルは無縁だったが、悔いはない。「1度だけ過去に戻って、自分にアドバイスをするなら?」と聞かれても「戻ることはないので、パッとは出てこないですね」と答え、五輪について問われると「素晴らしい舞台」と言った。

 「一言で言うと人生かな」というフィギュアスケート。53分間の会見で、ケガのことは一切触れず、後悔は口にしなかった。晴れやかな心を白い衣装に重ね、「26歳までやって、全てやり切って悔いはない。もう1度、生まれ変わるならスケートの道はないと思います」と笑顔で言い切った。【高場泉穂】