全仏テニス波乱の歴史の理由 「赤土」の秘密に迫る

全仏オープンの会場スタッド・ローランギャロスのセンターコート「フィリップ・シャトリエ」(撮影・木下淳)

 【パリ25日=木下淳】男子テニスの錦織圭(27=日清食品)らが出場する4大大会第2戦、全仏オープンが28日に開幕する。創設された126年前から赤土を使い続ける4大大会唯一のトーナメント。例年、波乱が起こる理由にもなっている赤土の魅力とは。会場のローランギャロスに記者が“潜入”し、秘密に迫った。

 青い空、緑の観客席に美しい赤が映える。ローランギャロスの代名詞、赤土には番狂わせの汗と涙が染み込んできた。要因はサーフェス(表層)だ。4大大会唯一の土コートは芝やハードと異なり球足が遅く、ラリーが続く。ベースラインでは足を滑らせながらの攻防が求められ、忍耐力の勝負が波乱を呼んできた。

 赤土の歴史は1880年に始まった。はじめは南仏カンヌでタイルを粉状にしていたが、ローランギャロスのコート管理責任者ブリュノ・スラスタン氏(53)によると「我々の赤土はレンガを砕いたもの。レンガ造りの家が多いフランス北部で始まったと聞く」。伝統は守られ、1891年に前身のフランス選手権が始まって以降、ローランギャロスの赤土は北部ランス近郊で造られた穴開きレンガだけを使う。手に取ると、しっとりとして柔らかい粉土のサラサラと、レンガの粒のザラザラが混ざった感触。においはない。管理歴29年目のブリュノ氏は「最高だろ? 質は世界一。よく次元が違うと言われるよ」と親指を立てた。

 赤土は表層1、2ミリを覆い、センターコートには手押し車40台分の計2トン、全24面で45トンが使われる。大会中、整備に当たるのは計162人だ。ブリュノ氏ら10人の常勤コートキーパーと、フランス全土の赤土コートから集まる各管理責任者20人、残る132人を熟練のアルバイトが担う。朝6時半にコートカバーを外し、試合中はセット間にほうきがけ。試合後は「コートを溺れさせる」との表現で大量の水をまき、湿度を保つ。「全5層で赤土の下の第2、3層がスポンジの役割をする。構造は1928年に現会場に移転してから変えていない」という。

 赤土は湿ると摩擦で球足が遅くなり、晴れて乾燥すると速くなる。「ジョコビッチは必ず『水をかけてくれ』と言う。反対に(最多9度優勝の)ナダルはリクエストしてこない」とブリュノ氏。赤土をめぐる駆け引きで時には試合が5時間を超える。フランス代表コーチのティエリ・テュラーヌ氏(53)は「我々の誇りである赤土の上で、極限状態になった選手の心の中まで見えてくるような大会になる」と、今年もドラマが起きる展開に期待した。

 ◆全仏オープン 1891年に始まったフランス選手権が前身で、1925年から国際大会化。28年から現会場で開催。ローランギャロスは世界初の地中海横断に成功した飛行家の名。センターコートは約1万5000人収容のフィリップ・シャトリエで、今年の決勝は11日に行われる。日本勢は男子の佐藤次郎が31年と33年に、女子は伊達公子が95年に4強入りしたのが最高成績。

 ◆WOWOW放送予定 27日午後5時10分から「現地発! 全仏テニス最新情報」。同9時から「錦織圭 世界の頂点へ!」。ともにWOWOWプライムで無料放送。28日~6月11日は「赤土コートの頂点、全仏オープン・テニス」を連日生中継。