桃田賢斗V「折れそうになった」心身限界から復活

上田を破り優勝を決めた桃田はコートにうずくまり涙を流す(撮影・河野匠)

<バドミントン・日本ランキングサーキット大会>◇最終日◇5月31日◇埼玉・さいたま市記念総合体育館◇男子シングルス決勝ほか

 違法カジノ店での賭博行為で無期限の試合出場停止処分から約1年2カ月ぶりに復帰したバドミントン男子の桃田賢斗(22=NTT東日本)が涙の復活優勝を飾った。決勝は日本代表の上田拓馬(28)に、今大会初めて1ゲーム落とすなど苦戦。最終ゲームも最後までもつれたが、再びプレーできる喜びと感謝の気持ちをコートにぶつけ、競り勝った。優勝が決まると、謹慎中の苦闘を物語るように号泣した。

 苦しい日々が、頭を駆け巡った。優勝が決まった瞬間、桃田はひざまずく。額をコートにつけると、約20秒動けない。起き上がると、大粒の涙が頬を伝った。違法賭博による1年以上の謹慎生活。「つらいときに支えてくれ、競技環境をつくってくれた方々への思いが込み上げてきた」。表彰式でもあふれるものは止まらなかった。

 日本代表の上田との決勝戦。第1ゲームは難なく奪うも、第2ゲームはスピードを上げた相手に戸惑い、今大会初めて失う。1-1で迎えた最終ゲームは一進一退も16-18と追い込まれた。後がない状況だったが、ここで上田がチャンスボールをミス。勝機は逃さない。強烈なスマッシュなどで4連続得点で逆転。最後は相手のシャトルがラインから外れ、ゲームポイントを制した。

 試合後、ユニホームで涙を拭いたとき、見えた背中には何本ものテーピングが張られてあった。「体力的にきつく、精神的にも折れそうになった」。約1年2カ月ぶりの実戦。元世界ランク2位も、心身ともに限界に達しつつあった。接戦を制する力になったのは「支えてくれた方への恩返し」の思いだった。

 出場停止期間。練習こそできたが、チームへの同行は許されない。千葉市の練習場に居残ったとき、当初は寂しさと空虚感に包まれた。先の見えない苦しみの中、会社の先輩、後輩、チームメートは「頑張れよ」と声をかけてくれた。両親からも「体は大丈夫か」と気遣われた。何げない言葉も「それがうれしかった」。感謝の気持ちはプレーで伝えたい。最後まで執念深くシャトルを追った。

 今後は7月の全日本実業団選手権(5日開幕、秋田)出場後、カナダオープン(11日開幕、カルガリー)USオープン(19日開幕、アナハイム)に自費で出場する。「応援される選手になりたい。自分の行動、立ち居振る舞いを見ていただきたい」。3年後の東京五輪へ、この日の涙を糧にしていく。【田口潤】

 ◆日本ランキングサーキット大会 99年から開催。国際大会出場の日本代表選手を除いた日本ランキング上位32人(組)によるトーナメント戦。日本ランキングポイントの加算対象で、日本代表選考の大会でもある。