猫好きレスラー文田健一郎、キャット驚く世界一の訳

<レスリング:世界選手権>◇22日◇パリ◇男子グレコローマンスタイル59キロ級など

 59キロ級で初出場の文田健一郎(21=日体大)が初出場優勝を成し遂げた。決勝でミランベク・アイナグロフ(カザフスタン)に2-1で逆転勝ちし、今大会で日本勢初の金メダルを獲得した。日本男子の世界選手権での金メダルは、1983年大会グレコローマン57キロ級の江藤正基以来34年ぶり。日本協会によると、21歳8カ月の文田は五輪、世界選手権を通じ、日本人のグレコ最年少王者となった。新星が20年東京五輪へ向けて弾みをつけた。

 初戦で負傷した文田は止血のテープを頭に巻いて5試合を戦い抜いた。決勝は、低い前傾姿勢で胸を合わせることを嫌うアイナグロフに投げを出せない状況が続いたが、焦りはない。「(得意の)反り投げを警戒してくるのは分かっていた。前に出て重圧をかけてポイントを取っていこうとコーチと相談した」。積極的に前に出てポイントを重ねて逆転。セコンドの笹本コーチと抱き合い、大学の仲間の寄せ書き入り日の丸を掲げ、バック宙で喜びを爆発させた。

 豪快な反り投げなど「投げ」に絶対の自信がある。だが、5月のアジア選手権決勝の再戦となったアイナグロフとの決勝のように警戒された。そんな中でも、活路は見えていた。5試合中テクニカルフォール勝ちは1試合。根気強く前に出る作戦通りの優勝だった。

 昨年のリオデジャネイロ五輪に出られず、今大会に懸けてきた。悔しさもあって、日体大で同学年の樋口黎、先輩の太田忍(ALSOK)がリオ五輪で獲得した銀メダルには1度も触れていない。「五輪のメダルではないので価値は違う。でも、自分で手に入れた金なのでうれしい」。

 文田の特長はしなやかに背中を反らせる柔軟性にある。まるで猫を思わせる柔らかさだが、加えて猫好きでもある。耳が折れ曲がったスコティッシュフォールドと、短い足が特色のマンチカンがお気に入り。6月の全日本選抜選手権前は、3時間も猫カフェに入って過ごし、気分をリフレッシュしたほどだ。

 そんな文田が先輩太田と肩を並べるまでに成長してきた。「(6月の全日本選抜選手権で)太田選手にも勝って、他の国際大会でも勝ってきたので、僕がここで負けるわけにはいかないと思った。最終的な目標は東京五輪での金メダル。五輪で金を取ったら、どれぐらいうれしいんだろう」。猫好きレスラーの目は3年先に向いていた。

 ◆文田健一郎(ふみた・けんいちろう)1995年(平7)12月18日、山梨・韮崎市生まれ。韮崎西中1年からレスリングを始める。父敏郎さんが監督を務める韮崎工で、11~13年の全国高校生グレコローマン選手権と国体で3連覇など高校8冠を達成。16年全日本選手権初優勝。今年は5月のアジア選手権、6月の全日本選抜選手権でともに初優勝した。身長168センチ。

 ◆グレコローマンスタイル 上半身への攻防に限られ、男子のみの種目。腰から下への攻防も認められ、タックル中心の試合展開となるフリースタイルと対照的に投げ技が多用される。レスリングの起源とされ、五輪は1896年の第1回アテネ大会から実施しており、世界選手権は1904年のウィーン大会から始まった。現在は59キロ級から130キロ級まで8階級に区分され、五輪では6階級が行われる。