伊達公子コートにさよなら「悔しいという感情ない」

引退セレモニーで客席の声援に応える伊達(撮影・江口和貴)

 46歳。世界の伊達公子(エステティックTBC)が完全に散った。世界67位のアレクサンドラ・クルニッチ(セルビア)に、国際公式戦シングルス通算721試合目にして、初めて1ゲームも奪えない0-6、0-6の完封負け。08年に現役復帰し、9年間にわたった2度目の現役生活に幕を下ろした。日本のテニス史に名を刻んだ「世界のキミコ」は次世代にバトンを渡した。

 伊達は試合にならないと分かっていても、必死に球に食らいついた。最初の現役時代と合わせ、約16年分のプレーすべてをぶつけた。序盤で足を痛め、チェンジコートでは足を引きずった。それでも諦めなかった。「1ポイントでも多く、自分のプレーができるようにと、最後の最後までコートに立ち続けた」。

 今大会限りでの引退を表明していた。第1セットはわずか5ポイント、第2セットも8ポイントしか奪えなかった。これが現実だった。「体がついて行かなかった」。それでも13ポイント分、1番コートを埋め尽くした2835人の観客は声援を送り続けた。最後はバックでの返球がネットにかかった。

 約16年のプロ人生で、450勝271敗の試合には、伊達のすべてが詰まっている。「12年のブランクがありながら、これだけ長くプレーできたことをうれしく思っている」。伊達が引っ張ってきた日本女子テニス界の現役選手、OGも数多く見守った。

 試合後の引退セレモニーでは珍しく涙を見せた。この先、日本女子を支える現役選手を前にした時だ。「苦しい時とかあると思うが、テニスと出会えたことが良かったと思う時が必ず来る」。テニスが嫌で1度引退しながら、2度目の現役では心からテニスを楽しんだ。その自分の人生に照らし合わせた涙だったかもしれない。

 コートこそ違えど96年に世界1位のグラフ(ドイツ)を破った思い出の有明。朝からの雨は午後4時ごろに完全に上がった。試合時間たった49分。しかし、その49分は最高に楽しい時間だった。「今の私には悔しいという感情はもうない」。誰もが去りがたいコートの上には、虹がかかっていた。【吉松忠弘】

 ▼クルニッチ 勝ってごめんなさい。でも、プロ意識を持って戦いたかった。とても興味深いキャリアの最後に関わることができて光栄。