羽生V逸から闘争心「悔しさという大きな収穫手に」

オータム・クラシック最終日、男子フリーの演技を終えた羽生は、膝に手を当て肩を落とす(撮影・菅敏)

 14年ソチ五輪男子金メダルの羽生結弦(22=ANA)はフリーでミスを連発して155・52点で5位にとどまり、合計268・24点で2位に終わった。世界最高得点をたたき出した前日のショートプログラム(SP)から一転し、8つのジャンプのうち6つでミスするなど自己ベストを67・68点下回った。今季初戦の収穫は悔しさと強調。五輪連覇へ巻き返しを誓った。

 ぼろぼろの演技が、羽生の闘志に火をつけた。フリーは自己ベストより67・68点も低く、ソチ五輪以降ワースト順位の5位。額に汗を浮かべ、プーさんのティッシュボックスを抱えた羽生は悔しさを吐き出すようにまくしたてた。「こういう風になって思うのは、やっぱり挑戦しないと、僕らしい演技は絶対できない」。右膝痛のため、4回転ループを回避したが「ループをやれば良かったなと思うところもある。ルッツもできなくはない」。試合では試していない4回転ルッツへの挑戦まで口にした。

 歴代最高点を出した前日の完璧なSPとは一転、演技はかみ合わなかった。右膝痛を悪化させないため、4回転ジャンプの数を5本から3本に減らし、前半は3回転3本の構成。最初に4回転を跳んで勢いづけるところで「思い切ってできない難しさがあった」。冒頭の3回転ルッツが1回転となり、とっさに次の3回転ループを4回転にしようかなどと考え「いろんなことを考えすぎてぐじゃぐじゃになっちゃった」。得意技のトリプルアクセル(3回転半)で転倒するなど、8つのジャンプのうち6つでミスした。

 前半を抑えた分、基礎点が1・1倍になる後半は3本の4回転を跳ぶ自己最高難度の構成だった。それでも「できること全てを出し切っているわけではない。もっとやりたいな、と思っていました」。もどかしさの中で、今できる最高のものに挑戦したいという欲を再確認した。

 技術面を指導するトレーシー・ウィルソン・コーチ(55)は「彼は多くを悟ったマスターであり、謙虚に学び続けようとする弟子でもある。その両立こそが強さ」と言う。世界歴代最高点を出した2季前よりジャンプなど全ての要素で技術も質は上がった。それでも満足することなく学び、技術を磨き続ける。それが自己記録を更新し続ける羽生の強さといえる。

 この試合も「大きく学べた」と羽生。次戦は10月20日開幕のGPロシア杯。「悔しさという大きな収穫を手に入れることができた。強い自分を追いかけながら、さらに難しい構成で、追い抜いてやろうと思います」。挑戦することは楽しいかと聞かれると「競技者ですから」と笑った。【高場泉穂】

 ◆羽生のフリー150点台 ソチ五輪後では14年11月の中国杯とNHK杯で記録。中国杯ではフリー直前の練習で中国の閻涵(えんかん)と激突。約15分後に演技を強行し、ふらふらになりながら滑りきった。検査では頭部挫創、左太もも挫傷など全治2~3週間と診断され、万全ではない中、2週間後のNHK杯に出場した。