羽生結弦が言う「脚がクタクタになるまで滑る」幸せ

男子フリーで演技する羽生(撮影・山崎安昭)

 14年ソチ五輪金メダリストでSP2位の羽生結弦(22=ANA)が自身4種類目の4回転ジャンプ、ルッツを試合で初めて成功させた。フリーで195・92点で1位となったが、合計290・77点で2位に終わった。シニア参戦後8季連続でGP初戦の優勝を逃したが、平昌五輪シーズンの本格到来を告げる大会で大きな武器を手に入れた。

 実戦で初めての4回転ルッツ。羽生はスピードに乗って踏み切り、着氷でしゃがむようになりながら必死に右足でこらえた。決して「完璧なジャンプじゃない」。続く4回転ループが3回転になるなどミスが重なった。チェンに合計で3・02点差の2位だったが、フリーでは1位。フィニッシュポーズで2日連続で舌を出し、顔をしかめる一方、胸の底では別の感触も湧いた。「これだけ大きなミスをしても1位を取れたということは、ルッツがあったからかな」。自分史上最高難度のジャンプ。出来栄え点で1・14点を上積みし、14・74点。その1本の重みをかみしめた。

 会見では隣に座る18歳のライバル、チェンを「素晴らしいジャンプ能力を持ち、バレエ的表現をする選手」とたたえた。素直に認められるのは自信の裏返しでもある。「僕の個性はオールラウンダー」と話すようにジャンプ、ステップ、スピン、表現力、総合的な力で他を圧倒するのが羽生の強み。実際、4月の世界選手権フリーで世界最高得点をマークしたようにジャンプの種類や本数で劣っても、総合力で勝機はある。だが、繰り返すのは「スポーツだから」という言葉だ。4回転の種類を増やしたことで、連覇を狙う五輪で強敵になる宇野昌磨、チェンらにジャンプでも負けないという意思表示にもなった。

 羽生の成長は4回転ジャンプとともにある。11年にトーループを初成功。ソチ五輪前にサルコーを備え、16年には3つ目のループを世界で初めて成功させた。「僕の場合、難易度順にステップしていく。少しずつしか成長できない」。常に挑戦、試行錯誤しながら自分のものにしてきた。だから、ルッツがきれいな成功といかなくても「それが羽生ですから」と笑えた。

 まだフリーの演目「SEIMEI」の完成は遠い。シーズン序盤での4種類目の4回転成功を喜びながらも「1つのエレメンツ(要素)だけがプログラムじゃないというのは重く感じている。もっと、練習を重ねる」と前を向いた。「僕はこうやっていろんなことに挑みながら、すっごい緊張して、本当に脚クタクタになるまで滑ることができるという幸せを感じながら、今回試合をやっていました」。挑戦こそが、羽生をさらなる高みに向かわせる。【高場泉穂】