羽生結弦は泣いていた 欠場決断の瞬間…その舞台裏

9日の公式練習で痛い表情を見せる羽生結弦

 フィギュアスケート男子で14年ソチ五輪金メダルの羽生結弦(22=ANA)が10日、右足関節外側靱帯(じんたい)損傷のためグランプリ(GP)シリーズNHK杯を欠場した。9日の練習で4回転ルッツを跳んだ際に転倒し、負傷。この日昼まで熟考した末、涙を流し、欠場を決断した。5連覇が懸かったGPファイナル(12月7日開幕、名古屋)出場は消えたが、全日本選手権(12月21日開幕、東京)と66年ぶりの連覇が懸かる平昌(ピョンチャン)五輪に向け、ここから復活の道を歩む。

 無理しても出るつもりだった。羽生は負傷した9日夜は病院には行かず、ホテルで右足首を冷やし、回復を待った。当日に患部が腫れていなければ練習で様子を見て出場する方向だった。ジャンプ専門のブリアン・コーチは、胆のう手術明けで来日できなかったメインのオーサー・コーチに連絡。「フリーでは4回転ルッツ、ループをやらせないと話し合いました」。大技回避のプランを考えるなど、陣営も羽生の意思を尊重した。

 だが、祈りは届かなかった。一夜明けると、患部を触るだけで痛みがあった。ブリアン・コーチは「ユヅルはとても落ち込んで、泣いていた」と明かし「自分の国で滑るのを楽しみにしていたんだ」と気持ちを代弁した。出場が厳しいと悟った羽生は午前11時20分からの練習を断念。その後、医師の診察を受け、ドクターストップがかかった。

 午後2時ごろに欠場が発表され、羽生は午後3時にコメントを出した。「皆さまご心配をおかけしました。NHK杯出場を目指し、昨夜から先生方に懸命な治療をいただきましたが、残念ながら医師の最終判断で欠場することになりました。今後、治療に専念し、全日本に向けて頑張ります。たくさんの応援ありがとうございます」。前向きな言葉の裏に悔しさがにじんだ。

 事故の予兆はあった。非公開練習を回避した8日は熱を出し寝込んでいた。病みあがりで臨んだ9日の公式練習では4回転ループでミスを連発。ブリアン・コーチが「大丈夫か?」と尋ねると、羽生は「大丈夫」と応え、さらに難しい4回転ルッツに挑戦。それが、大けがにつながった。

 全治は明らかになっていないが、五輪代表最終選考会となる12月の全日本選手権での復帰を目指す。仮に全日本を欠場しても、実績のある選手については救済措置があり、羽生が代表入りする可能性はある。ブリアン・コーチから「NHK杯も大事だが、五輪で連覇することが何よりの目標だ」と諭されたように、開幕まで3カ月を切った五輪に向け、回復に専念する。【高場泉穂】