宇野昌磨が羽生を語る「同じ位置に自分も行きたい」

男子SPの演技を終え、思わず舌を出す宇野(撮影・河野匠)

 男子SPで宇野昌磨(19=トヨタ自動車)が101・51点を記録し、地元名古屋の大舞台で2位発進した。トリプルアクセル(3回転半)でまさかの転倒も、首位のネーサン・チェン(米国)とはわずか1・81点差。4連覇中の羽生結弦(23)が右足の負傷で出場を逃したが、12年の高橋大輔から続く日本男子6連覇も射程圏内だ。今日8日のフリーで逆転初Vを決め、18年平昌(ピョンチャン)五輪へ強さを継承する。

 舌をペロリと出し、宇野はまさかのミスを笑った。順調に要素をこなし、迎えた最後のトリプルアクセル。踏み切りきれず、体を強く絞めて回りきったが「気付いたら氷がなかったです」。着氷後に靴の刃が氷に取られるよう背中転倒。「悔しさというより、面白いこけ方をしてしまったな」と笑い飛ばした。

 前戦のフランス杯では「本当にきつかった」と2位ながらジャンプの失敗連続に頭を抱えた。帰国後は午前練習から「体の負担にならないジャンプを、前の何倍も増やした」。従来はいきなり4回転を跳んでいたが、3回転ジャンプを繰り返すことで基礎を染みこませた。代名詞の4回転フリップは1・57点の加点を導き「いい試合ができたっていうより、いい練習ができた」と準備に目を向けた。

 「今、最初に思ったのが、お客さんがあんまり入らないんじゃないかな」

 フランス杯一夜明けの先月19日、グルノーブルの会場の一室で苦笑いの宇野は素直な思いを発した。4連覇中の羽生が右足負傷でファイナル5連覇の夢を逃した。とっさに抱いたのは観客動員の心配。宇野は以前から尊敬する羽生と自分を、客観的に格付けする。

 「みなさんの中で羽生選手が1番で、その次にたくさんの選手がいるっていうイメージだと思う。僕もそんなイメージなんです」

 昨季の世界選手権は2位で、羽生とワンツーフィニッシュ。だが、その差で語れない王者との線引きを自覚し、宇野は冷静に言う。

 「(羽生は)追いかけられる立場として、すごく注目されながらあれだけの演技ができる。同じ位置に自分もいきたい」

 フランスでの心配はこの日、取り越し苦労に終わった。超満員のスタンドからは拍手で背中を押され「これまで出た試合で一番温かかった」と少し照れた。編曲によるタイムオーバーでの1点減点も、2位発進も気にならない。12年の高橋大輔から続く日本男子の5連覇を伸ばす権利は、宇野だけにある。堂々と主役を張る。【松本航】