スノボ鬼塚雅 金メダルへ最高難度の必殺技に挑戦

17年9月4日、スノーボードW杯スロープスタイル女子で銀メダルを獲得した鬼塚雅(AP=共同)

 スノーボード女子の鬼塚雅(19=星野リゾート)が世界でも数人しかできない大技を引っさげ、18年平昌(ピョンチャン)五輪に乗り込む。スロープスタイルと新種目ビッグエアの2種目で五輪代表を目指す新鋭が挑戦を視野に入れるのが、女子最高難度の「バックサイドダブルコーク1080」。縦2回転、横3回転する必殺技で、2種目のメダル獲得を狙う。

 その視線は金メダルを見据える。そのために鬼塚は、練習では決めているものの、まだ公式戦では成功していない「バックサイドダブルコーク1080」が必要と自覚する。その大技をここぞの場面で出そうと決めている。それは平昌五輪の決勝だ。金メダルの最大のライバルは「バックサイドダブルコーク1080」を世界で初めて決めたアンナ・ガッサー(オーストリア)。17年世界選手権ビッグエアの金メダリストに対抗心を見せつつ笑った。

 鬼塚 バックサイドダブルコーク1080は点数が高くて、それができたら確実に優勝か2位ですね。でもアンナもおそらく確実にはできない。それができたらたぶん優勝できるかなと思っています。それが私の必殺技です。

 横に3回転しながら、縦にも2回転。世界で数人しかできない大技に着手したのは、苦い経験からだった。今年3月のUSオープン。15年の世界選手権スロープスタイルを制した鬼塚は、優勝候補として挑んだが5位だった。何かを失敗したわけではない。むしろ、逆スタンスで踏み切って2回転半する「キャブ900」など当時のベストパフォーマンスを出し切りながら、表彰台にすら手が届かなかった。このままでは頭打ちは間違いない。そんな現実を突きつけられた。

 鬼塚 できる技すべてやって負けたんですよ。何かを増やさないと5位以上にはいけないなと知らされた。「やるしかない」と追い込まれました。

 その時、優勝したガッサーは、自分にはできない大技を取得していた。それを超えるにはバックサイドダブルコーク1080を身に着けるしかなかった。15年世界選手権後も挑戦したが、超えられなかった難題に再チャレンジ。「体操をやった経験がなく、縦に回る感覚が全く分からなかったんです。どこで地面が見えるかもまったく分からなくて…」。最初はマットに向かい、がむしゃらに飛んだ。頭や背中から落ちることばかり。陸上男子の山県らも指導する仲田健トレーナー(48)にトランポリンへ連れて行ってもらい、空中感覚を覚えたこともあった。「やるしかない」の危機感で、平昌五輪の9カ月前の5月、ついに雪山で完成させた。

 スロープスタイルは15年世界選手権優勝、ビッグエアは今季W杯で2位となり、2種目での五輪代表は確実。過去の冬季五輪で1大会で2個のメダルを獲得した日本人女子はいない。本番で必殺技が決まれば、その名が歴史に刻まれる。【上田悠太】

 ◆鬼塚雅(おにつか・みやび)1998年(平10)10月12日、熊本市生まれ。熊本・ルーテル学院高を経て、早大のスポーツ科学部に在学。5歳でスノーボードを始める。8歳で大手用具メーカーとスポンサー契約を結び、世界を転戦。スロープスタイルは15年世界選手権で日本女子初の金、17年は銅で2大会連続表彰台。ビッグエアは今年11月のW杯北京大会、12月のW杯メンヘングラッドバッハ大会(ドイツ)の2大会連続2位など通算3度のW杯表彰台。158センチ、47キロ。

 ◆バックサイドダブルコーク1080 バックサイドは左足が前になるレギュラースタンスの人ならば、着地面に対して背中を向けて回り出すこと。コークはスピンの軸が斜めや縦になったりするスピンで、ダブルコークならば縦2回転。トリックの名称の後の数字は、スピン数を表し、360度(1回転)×3の1080ならば、3回転を意味する。

 ◆スロープスタイル 14年ソチ五輪より採用された採点競技。雪の斜面を滑走しながら、コース上に設置された、階段の手すりに似たレールなど人工の構造物「ジブ」、ジャンプ台などで演技。技の大きさや完成度、全体のスムーズさなどで得点を競う。

 ◆ビッグエア 平昌五輪の新種目。高さ30~40メートル、20度以上の傾斜のある台から滑り降り、空中技の難易度、完成度、高さ、着地の美しさなどを競う。北米を中心に若者の人気が高く「冬季Xゲーム」など高額賞金のプロ大会を主戦場とする選手が多い。