福原愛とイ・ボミ「女子トーク」競技から恋バナまで

福原愛(左)とイ・ボミは出場選手に「がんばれー」とエールを送る

 平昌五輪(ピョンチャンオリンピック)は今日9日、開幕する。次の20年は東京夏季、22年は北京冬季と、史上初めてアジアで3大会連続のオリンピック(五輪)が開かれる。韓国、中国との関係は決して安定していないが、五輪は平和の祭典。スポーツに国境はない。卓球の五輪メダリスト福原愛(29=ANA)と、女子プロゴルフの15、16年賞金女王イ・ボミ(29=韓国)。異国の地でも活躍する2人が「女子トーク」とともに、国境を超えるスポーツの力を語り合った。【取材・構成=田口潤、亀山泰宏、荻島弘一、首藤正徳】

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 日本人として中国でも活躍し、台湾人の夫と結婚した卓球の福原愛。韓国人として日本で活躍する女子プロゴルファーのイ・ボミ。異国でも活躍を続ける2人は初対面から意気投合し、話は弾んだ。

 福原愛(以後愛)ボミさんの靴かわいい。

 イ・ボミ(以後ボミ)愛ちゃんはテレビで見るよりかわいい。小さいし、白いし、全部、うらやましい。肌もすごくきれい。

 愛 カムサハムニダ。韓国で試合する時はコスメ、バッグのショッピングが大好きで。(東京の)新大久保のコリアンタウンにも行きます。

 ボミ 今日は日本語が少し分かりづらいかもしれませんが、よろしくお願いします。

 愛 すごく上手ですよ。こちらこそお願いします。

 ボミ 平昌五輪が始まりますね。私は広報大使を務めています。先月、地元の水原市で聖火リレーにも参加しました。ショートトラック女子では連続金メダルを狙う沈錫希選手、スピードスケートは女子500メートルで3連覇を目指す李相花選手は自分と同じ江原道出身だし、期待したいですね。

 愛 フィギュアスケートが楽しみです。卓球は9点ミスしても11点取ればいいけれど、採点競技は絶対に失敗が許されない。しかもショートとフリーのたった2回。4年分の努力が何分間かで終わってしまう。選手の気持ちを思うと、怖くて見ていられません。

 ボミ キム・ヨナ選手が(10年バンクーバー五輪で)金メダルを取った時は感動した。1度もミスなく、最後までやり切ったから。ゴルフは毎週試合がある。今週だめでも次週頑張ればいいと思える。愛ちゃんは五輪の重圧が分かるかもしれないけど。

 愛 (五輪は)何か、空気が違います。水の中にいるみたいな。呼吸ができなくて、すごく深い海の中にずっといるみたいで。息苦しいです。ずっと苦しくて、重くどろどろしていて、それが表彰式になるとパーッとはじける感じ。リオ(女子団体銅メダル)では、みんなで表彰台の上に集まって、写真を撮った時に、一気に解放されました。

 ボミ そんな重圧を経験すると、卓球をやりたくないと思いませんか?

 愛 そのストレスに勝った時の解放感も分かってしまっているので。麻薬のようなものでしょうか。もちろん(麻薬は)やったことないですけど。

 ボミ 中毒みたいな感じ?

 愛 そうそう。苦しいことが終わった時のうれしさ、幸せが分かるから、苦しくても頑張れます。

 ボミ 私も(重圧に打ち勝った時の)うれしい気持ちを知っているんですけど、最近は頑張っても結果が出なくて。すごく悩んでいたんですけど、愛ちゃんの話を聞いて、頑張ろうと思えました。

 ボミ 愛ちゃんは小さい頃から中国でもプレーしてたんですよね?

 愛 小さい頃から中国人のコーチがいて、5歳くらいから中国に行っていました。そのせいか、競技をする上では、国同士の問題は気にしていません。(大会前に日本と中国の関係が悪化した)北京五輪では、日本代表として出場していた私のことを中国の方も応援してくれました。国が違うとか、あまり分けて考えていません。多分ボミさんもそうですよね?

 ボミ 日本とか韓国とかの意識はないですね。体、顔は似ているし、文化も同じかなと。日本の方はみんな優しいし、倫理観が高いと感じていました。来日した当初は、日本語も全然話せなかったし、不安だった。だから、たくさんの皆さんが応援してくださる今の状況は信じられない。愛ちゃんは中国語はすぐ話せたのですか。

 愛 初めは全然話せませんでした。間違ったらどうしようと、恥ずかしくて、話せないこともありました。だけど、どこの国の人でもその国の言葉を話すと、喜んでくれるし、仲良くなれる。それが分かってからは、積極的になれました。

 ボミ 私も来日して2年くらい全然話せなかった。敬語も分からなかったですし。マネジャーに通訳をお願いしていました。転機は優勝インタビュー。まず韓国語で書いて、それを日本語にして覚えて、話したら、自分のものになってきた。でもまだまだゴルフ関係の話だけですけど。

 愛 私の中で、その国の言葉を身に付けたという基準が2つあります。1つは電話ができるようになること。対面しているとジェスチャーで通じるけれど、電話だと視覚に頼れないから。もう1つはケンカができること。その2つが(中国語で)できるようになったのは中学生の頃です。

 ボミ ケンカは難しい。だから、よく日本の男性はどうですかと、言われるけど「ケンカができないからダメです」と言う。

 愛 でも(ボミさんの相手は日本人の方が)ちょうどいいかも。韓国語でばーと怒っても分からないから。自分はストレス発散ができますよ。

 ボミ 愛ちゃんは旦那さん(台湾代表の江宏傑)とケンカをしますか。

 愛 ケンカします。でも旦那さんは怒らない。私は怒るけど。ケンカではないかな。

 ボミ 怒るイメージない。どういう時に怒る?

 愛 旦那さんと、タピオカミルクティーを買おうと約束していたのに、旦那さんが忘れて他のことをしたら、すごく怒ります。「タピオカミルク飲むって言ったじゃん」と。

 ボミ それは旦那さんだめですよ。

 愛 女性は、昔のことまで思い出して、どんどん怒ってしまうから。あの時もこの時もと。

 ボミ 我慢したことが全部出る。分かります。

 ボミ 日本と中国の文化の違いで戸惑うことはなかったですか。

 愛 ありました。中国人はイエスとノーをはっきり言う傾向があります。だから、初めは怖く感じる。そして中国の人は、仲良くなればなるほど、もっとはっきり言いますね。

 ボミ 韓国もそうです。日本の方は初対面でもすごく優しい。悪い人がいないと思うくらい。

 愛 韓国の人も優しいイメージ。

 ボミ 韓国と中国は似ている。はっきり言う。ダメならダメと。日本人はちょっと我慢する感じかな。

 愛 はっきり言うところはいいと思います。何を考えているか分かるので。日本人は相手がどう受け止めるかを、考えすぎて伝えない。この文化の違いがミスコミュニケーション(誤解)を生んでしまうのかもしれません。

 ボミ だから日本の人とはケンカにならない。ためるから。でも、文化は違うけど、互いに受け入れていけば、慣れていくと思う。

 愛 スポーツの力はとても大きいと思います。東日本大震災の被災地に行った時、最初は子供たちの顔はこわばっていました。でも一緒に卓球を楽しんだ後に話すと、みんな笑ってくれました。スポーツは人を笑顔にすることができると感じた瞬間でしたね。それから競技場に入れば、偉いとか偉くないとか、立場は関係なくなります。スポーツの中にみんなで入って楽しめます。

 ボミ ゴルフもそうですね。偉い人とか関係なく、みんなで楽しめる。

 愛 これからアジアで五輪が続きます。スポーツの外の世界ではいろいろあるかもしれないけど、私たちの中には何もない。逆に五輪を通して、仲良くなる機会になればいいですね。五輪は世界中が1つになれる、唯一の大会だから。

 ボミ まずは平昌五輪を成功させて、東京、北京といけば。

 ボミ 出産は大変でしたか。

 愛 妊娠中はつわりに苦労しました。毎日、起き上がることが精いっぱい。最初はご飯も食べられず、旦那さんから「ここまでは食べて」と分量を示されて、食べられないとケンカになったり。

 ボミ 妊娠して初めて分かることばかりでしたか。

 愛 優雅なマタニティーライフを想像していたけど、大違いでした。出産後も、こんなに体が変わって、筋肉もなくなるのかと驚いています。

 ボミ 卓球では出産して復帰した選手はあまりいませんか。

 愛 今までの卓球界では、出産したら、そのまま家庭に入る選手が大半。だから、後輩のために自分の経験談を伝え、選択肢にしてもらえたらと思っています。見本とまでいうとおこがましいですが、愛ちゃんがこうしたから、自分たちはこうしようと、指針にしてもらえればうれしいです。

 ボミ 誠実で、格好いい旦那さんと、どう知り合ったのか、教えてください。

 愛 ジュニアの頃から一緒に大会に出ていて、小学生時代から知っていました。4年前に(腰など)ケガをした時、フェイスブックを始めたのですが、そこに連絡をもらったんです。

 ボミ 旦那さんから。うわー。

 愛 中国語でメッセージが来て。「日本着いた? 僕は台湾に着いた」と。なぜだろう、別に私に言わなくていいのにと思ったけど、そこから毎日連絡が来るようになりました。

 ボミ ウォー。

 愛 韓国の男性の方がロマンチックでしょ。

 ボミ それはドラマ。

 愛 韓国の方は(付き合って)100日記念日をお祝いしたりするんですよね。韓国の人はいいなと思います。

 ボミ でも私はずっと日本にいるから、何もないです。愛ちゃんがうらやましい。

 ボミ 東京五輪は出たい。(夏の)五輪はテレビでしか見たことがないから。愛ちゃんはどうですか。

 愛 もちろん東京五輪は自国開催で魅力的なんですけど、その魅力と同様に家族も大事です。これも出産して分かったのですが、赤ちゃんと離れることが、こんなにもつらいことなんだと知りました。

 ボミ 卓球への情熱は変わりませんよね。

 愛 卓球はものすごく好きなので、どのレベルで関わるか悩んでいます。(日本リーグの琉球アスティーダに所属する)旦那さんが頑張っている姿を見て、応援する人の気持ちも初めて分かりました。今まで誰かを支えることがなかったので。今後の私自身についてはいろいろなことを視野に入れて、選択していきたいと思います。

 ボミ 今日は本当にありがとうございました。元気をもらえました。もう終わりですか。対談第2弾は台湾でやりましょう。

 愛 私も楽しかったです。じゃあ次は台湾で。

 ボミ 台湾の優しい男性も一緒で(笑い)。

 ◆福原愛(ふくはら・あい)1988年(昭63)11月1日、仙台市生まれ。3歳9カ月から卓球の英才教育を受け、5歳10カ月で全日本選手権バンビ(小2以下)で史上最年少V。04年アテネ五輪シングルス16強、08年北京五輪シングルス16強、団体4位。12年ロンドン五輪シングルス8強、団体銀メダル。16年リオ五輪シングルス4強、団体銅メダル。同年9月、リオ五輪台湾代表の江宏傑と結婚。昨年10月、長女あいらちゃんを出産。右シェーク・前陣速攻型。155センチ。

 ◆イ・ボミ 1988年8月21日、韓国・水原市生まれ。12歳でゴルフを始める。08年から韓国ツアーに参戦し、10年に3勝を挙げ賞金女王。11年から日本ツアーを主戦場とし、12年ヨコハマタイヤPRGRレディースで初優勝。15年は7勝を挙げ女子ツアー史上初の獲得賞金2億円を突破、初の賞金女王。翌16年も5勝し、2年連続賞金女王。日本ツアー通算21勝。昨年6月から平昌五輪・パラリンピックの広報大使を務める。愛称はスマイルキャンディー。158センチ。