関学大QB「戻ってきて」日大選手に再戦呼びかけた

関学大対関大 負傷から復帰出場し、パスを決める関学大の奥野選手(撮影・上田博志)

 アメリカンフットボールの定期戦で日大選手から悪質タックルを受けて負傷した関学大QB奥野耕世選手(2年)が27日、大阪・吹田市の万博フィールドで行われた関大戦で負傷以来3週間ぶりの実戦復帰を果たした。騒動後初めて取材に応じた奥野選手はこの日から名前を公表し、反則を犯して引退を決意した日大の宮川泰介選手(3年)に対して、現役続行及びルール内での正々堂々とした再戦を呼び掛けた。試合は奥野選手が決勝TDパスを決め、27-16で逆転勝利を飾った。

 夕暮れのフィールドで、額に汗の残った奥野選手が初めて思いを発した。日大の宮川選手の話題になると冷静な口調を少し強めた。

 「本人が『(競技を)やる権利がない』と言っていたけれど、すごくうまくて、戻ってきて活躍できる選手。正々堂々とルール内でしっかりプレーして(また)勝負できたらいいなと思います」

 6日の日大との定期戦で心身ともに傷を負った。パスの約2秒後、無防備な状態で背後から宮川選手のタックルを受けた。「何が起こったか分からなくて、気付いたら膝と腰が痛くて上を向いていた」と途中退場に追い込まれた。騒動は社会問題化し「自分が(アメフトを)しているから、家族に迷惑をかけていると思った」と悩んだ。

 だが、18日に宮川選手から直接の謝罪を受け、心境に変化が生まれた。同選手は22日の記者会見で「続ける権利はない」とアメフトとの“絶縁”を表明。「すごく心苦しいし、かわいそう」と思いやった。宮川選手は当時の内田監督らの指示に従って反則したと説明したが、指導者側は真っ向から否定。1学年上の加害者になるが、宮川選手の置かれた立場に思いを寄せずにはいられなかった。

 この日の試合は春の公式戦だが、通常の2倍となる超満員3000人の観客が訪れた。日大の対応の悪さで真相究明がなされておらず、奥野選手らは21日に被害届を提出。試合2日前には何者かによる奥野選手への危害予告があり、この日は会場周辺を大阪府警が警備した。これまで非公表だった奥野選手の名前も、関学大が「スポーツ選手として試合に出ており、名前を伏せ続けるわけにはいかない」と判断し、公表に踏み切った。ただし危害予告の影響で30社約100人のメディアに対し、19歳の同選手の撮影制限を設定。日常はまだまだ戻っていない。

 それでも第2クオーター(Q)最終盤から出場し、10-10の最終第4Qには「素直にうれしかった」と決勝の38ヤードTDパスに成功。パスで計127ヤードを獲得し「日本一になりたい」と笑った。昨年12月の甲子園ボウルで日大に譲った学生日本一の座。正QBを狙う奥野選手と関学大が、シーズン本番の秋へ向けて再スタートを切った。【松本航】