羽生結弦、悔しさ湧いて「自分の中に火がともった」

オータムクラシックで優勝し、金メダルを手に笑顔を見せる羽生(撮影・菅敏)

<フィギュアスケート:オータムクラシック>◇22日(日本時間23日)◇カナダ・オークビル◇男子フリー

ゆづのハートに火が付いた。冬季オリンピック(五輪)2連覇の羽生結弦(23=ANA)が、フリーで165・91点の2位にとどまったが、合計263・65点で2月の平昌(ピョンチャン)五輪以来約7カ月ぶりの復帰戦を制した。新ルールの中で新たなフリーをこなしきれず、多くの課題が見えた。悔しさを胸に「もっと強くなりたい」とさらなる進化を誓った。

勝負師羽生が帰ってきた。4分間のフリーを滑り終えると、顔をしかめ「くそぉ」とほえた。今季のテーマは、自分のために楽しく滑ること。だが、迎えた初戦。スピンが0点となるなどで得点が伸びなかったSPに続き、フリーでもミスを連発。湧き上がるのは変わらぬ悔しさだった。「五輪が終わって抜けていた気持ちの部分で、また自分の中に火がともった」と新たなスタートを実感した。

課題が露呈した。新フリーは、憧れのプルシェンコ氏の「ニジンスキーに捧ぐ」の曲を土台にした「Origin(オリジン)」。冒頭の4回転ループ、続く同トーループを着氷も、中盤の4回転サルコーで転倒するなどジャンプの精彩を欠いた。昨秋、右足首を痛め、五輪後は回復に努めてきたが、感覚はまだ戻りきっていない。ルッツ、フリップなど右足に負担のかかるジャンプはまだ解禁できない。

今季からフリーは30秒短縮。その分、要素が凝縮され、体力の消耗は大きい。息をきらしながら滑りきると「体がまだこのプログラムについていっていない」と調整不足を痛感した。各技に対する出来栄え点(GOE)が高くなった新ルールは、質を重視する羽生に有利に働くはずだが、この日は細かいミスで稼げず。「まだできたと思うところがたくさんあった」と取りこぼしも悔やんだ。

らしさも見せた。失敗に終わったが、終盤には「自分のできる最高のコンビネーションジャンプ」という4回転トーループ-トリプルアクセル(3回転半)の連続技に挑もうとした。難度が高い割に基礎点は合計点の0・8倍と割に合わない技。今季は最もリスクの高い4回転半(クワッドアクセル)の挑戦も視野にいれる。けがを抱えながら臨んだ平昌五輪で最高難度のジャンプを回避して勝利に徹した。その分、今季は攻める美学を貫く。

試合後は「自分を動物に例えると?」という質問に「猫」と答えた。「本当にわがままだし、マイペースだし、自分がしたいようにやっている。もうちょっと大人にならなくては、と思っている」。22年北京五輪を目指すかは明言しておらず、8月には、現役人生が終盤に近づいている実感が「あります」と話した。残る時間は長くない。「最短で強くなりたい」。自由な猫のように、次戦GPフィンランド大会(11月2日開幕、ヘルシンキ)で、自分がやりたいスケートを見せる。

◆男子における新ルール 国際スケート連盟(ISU)は6月の総会でルール改正案を承認。4回転ジャンプの基礎点は6種類とも引き下げた。一方、各技の評価となる出来栄え点はこれまでの7段階(+3~-3)から11段階(+5~-5)に。近年男子で4回転の種類、本数の競争が激化したことから、より技と演技の質を求める狙いがある。フリーでは、演技時間は従来の4分30秒から4分に短縮。ジャンプの数は8本から7本に減り、2度組み込める4回転を2種から1種類に限定した。基礎点が1・1倍になる演技後半のジャンプもSPで1つ、フリーで3つに制限。技術、芸術性のバランスがとれた演技に高得点がつくようなルールとなった。