新星乙黒拓斗が恩師越えV 白石麻衣推しの現代っ子

<レスリング:世界選手権>◇第3日◇22日◇ブダペスト

男子フリースタイル65キロ級で、初出場の乙黒拓斗(19=山梨学院大)が日本史上最年少王者に輝いた。決勝で8月のジャカルタ・アジア大会覇者のバジュラン(インド)を16-9で撃破。74年大会を制した高田裕司の20歳6カ月を超える19歳10カ月で制し、オリンピック(五輪)、世界選手権を通じて初の10代金メダリストになった。同57キロ級で昨年覇者の高橋侑希(ALSOK)と、同92キロ級の松本篤史(警視庁)は銅メダルを獲得した。

クールな男が大仕事をやってのけた。乙黒拓は、大学の恩師、高田監督の偉大な記録を超える19歳10カ月の史上最年少で頂点に立った。普段はあまり感情を表に出さないタイプだが、ひとたび競技になると一変する。五輪金メダリストの高田監督に「隠しておきたかった秘密兵器」と言わしめる逸材が、世界であいさつ代わりの快挙を達成し、20年東京五輪の金メダル候補に躍り出た。「いつも教えてもらっている監督の記録を超えたのは申し訳ないけど、ちょっとうれしい。東京五輪までに早めに世界選手権で優勝するのが目標だったので」と喜んだ。

決勝の相手は、アジア大会覇者。7-6でリードして迎えた第2ピリオド開始直後に右足首を痛めるアクシデントに見舞われたが、自他ともに認める負けず嫌いに火が付いた。「ここまできたら、やるしかない」。キレのあるタックルで圧倒し、世界を制した。

中学入学と同時に今大会の70キロ級代表の兄圭祐(21=山梨学院大)の後を追ってJOCのエリートアカデミーに入り、技を磨いた。高校総体を3連覇し、山梨学院大に入学。エリート街道を行くが、練習の虫でも知られる。学校の授業の合間にも陰で練習する姿を兄は何度も見ている。高田監督も「体が柔らかくてしなやか。練習も人の倍する。あんな選手はいない」。努力する天才が、世界の舞台で素質を開花させた。

アイドルグループ「乃木坂46」のファンで、推しメンは白石麻衣。「きれいじゃないですか」とべたぼれしており、オフの日は動画を見て癒やしを求めるように、オンとオフを切り替える天才でもある。不祥事に揺れたレスリング界待望の新星は、イケメンの現代っ子。「(東京は)ずっとチャレンジしたいと思っている。全盛期に近い時期に日本で開催される五輪。なおさら出たい」。19歳が2年後の大舞台を照準に定めた。

◆乙黒拓斗(おとぐろ・たくと)1998年12月13日、山梨・笛吹市生まれ。4歳から競技を始める。東京・帝京高時代の14~16年に全国高校総体を3連覇。15年には世界カデット選手権54キロ級で優勝した。17年に国体成年61キロ級を制し、今年6月の全日本選抜選手権65キロ級を初制覇。プレーオフも制し、世界選手権初代表に。173センチ。