渡辺雄太NBA成功への鍵 恩師ウィスマン氏の提言

元日本代表監督も務めた横浜のウィスマン監督(撮影・戸田月菜)

NBAのグリズリーズで日本人2人目となるNBAデビューを果たした渡辺雄太(24)の「恩師」が30日、祝福とともにNBAでの成功の鍵を提言した。元日本代表監督で、現在Bリーグ横浜ビー・コルセアーズを率いるトーマス・ウィスマン氏(69)は11年に渡辺を高校生で初めて日本代表候補に招集した。当時からスキルとシュート力、守備力を評価しており、今後はフィジカルを強化すればNBAの第一線で活躍できると分析した。【取材・構成=戸田月菜】

横浜市内で取材に応じたウィスマン氏は、穏やかな笑顔で渡辺の快挙を祝福した。「雄太の努力が実ってうれしいよ」。元日本代表監督、16-17年シーズンには栃木をBリーグ初代王者に導いた名将は、高校時代に渡辺の才能を見いだした1人でもある。

全米大学体育協会(NCAA)1部やオーストラリア、中国、日本などで指導歴がある同氏は「NBAの本契約を勝ち取るためには、もっとフィジカルを強くして(NBA下部の)Gリーグでどれだけ対応し、成長できるかどうか」と分析。「チームのトレーナーや栄養士と一緒に、当たり負けない体を作って欲しい。なんなら、ちゃんこ鍋を贈ろうかな」とにやりと笑った。「雄太は良いディフェンスを持っている。ジョージワシントン大時代にもチームで最優秀ディフェンス選手になっているし、外角からもシュートもしっかり打てる。その2つが雄太の武器になる。NBAでも戦える」と太鼓判を押した。

「今のNBAは、彼にとって良いタイミング」とも言う。例に挙げたのは、オーストラリアで指導し、現在NBA4季目を迎えるジョー・イングルス(31=ジャズ)。203センチ、102・5キロで、渡辺と同じ左利きのスモールフォワード(SF)だ。17年にジャズと4年5200万ドル(約57億2000万円)の大型契約を結んだ。「今はビッグマンがリーグの主流ではなく、3点シューターも尊重されている。左利きで腕の長い雄太は、イングルスのような選手になれる」。

渡辺の可能性を信じた。日本代表監督だったウィスマン氏は年代別代表だった香川・尽誠学園高2年の渡辺を、当時史上最年少17歳で日本代表候補に引き上げた。「いいボールハンドリング、シュートを持っていた。200センチを超えるポインドガード(PG)は日本にいないし、これは違う次元に行ける可能性がある」。代表ではPGとしてプレーさせたことで、今につながる引き出しも増えた。

渡辺が高校3年時に渡米するか悩んでいた際、ウィスマン氏は渡辺の父英幸さんに「田臥と話をした方がいい」と助言。英幸さんの携帯番号を、当時唯一のNBA経験者だった田臥勇太(現栃木)に伝え、田臥から電話させた。「絶対にアメリカに行かせてくださいね」。田臥からの言葉に親子は背中を押された。英語が全く話せなかった渡辺には「まずはプレップスクール(大学進学予備校)に行った方が良い」。現富山のドナルド・ベック監督(65)の力も借り、何校かを紹介。渡辺はその中の1校に進学した。NCAA1部のジョージワシントン大卒業後にNBAクラブと交渉する代理人を決める際も、最大の利益を得られるところを一緒に探した。

成長を見守ってきたからこそ、「彼の偉業、達成感を誇りに思う」。恩師は渡辺の活躍が日本バスケ界に夢を与え、違う次元に連れて行くことを信じている。

◆トーマス・ウィスマン 1949年3月28日、米イリノイ州生まれ。クインシー大卒業後は、NCAA1部ニューメキシコ大のアシスタントコーチを2季務めた。日本では88年から指導に当たり、08年から栃木監督、10~12年男子日本代表監督。14年に栃木に戻り、16-17年シーズンにBリーグ初代王者に導き、最優秀監督。18年から横浜監督。オーストラリアのリーグなどでも最優秀コーチ選出経験があり、英国、香港などでも代表監督を務めた。