紀平梨花の驚異の平常心 1時間半の爆睡後に世界新

女子SPを終え、会見場でザギトワ(手前)とハグする紀平(撮影・菅敏)

<フィギュアスケート:グランプリ(GP)ファイナル>◇6日(日本時間7日)◇カナダ・バンクーバー◇女子ショートプログラム(SP)

女子SPで今季負け知らずの16歳、紀平梨花(関大KFSC)が82・51点とルール改正後の世界最高点を記録し、首位発進した。代名詞のトリプルアクセル(3回転半)を成功させ、平昌五輪(ピョンチャンオリンピック)金メダルで77・93点の2位ザギトワ(ロシア)を4・58点リード。明日8日(日本時間9日)のフリーで05年浅田真央以来、日本女子13年ぶりのシニア1年目優勝を目指す。

両手を握りしめ、祈った紀平の視線が「82・51」の数字をとらえた。「えっ!」。目と口を開くと同時に、聞こえた大歓声。初めての大舞台は今季ルール改正後、世界最高得点での幕開けだ。平昌五輪金メダルのザギトワを上回る首位発進に「あまり実感もわいていない。そんなに点数が出ると思わなかった」と心境を口にした。

GP2戦でいずれも失敗したSPの3回転半。冒頭にその代名詞を「90点」という出来で決めると、2・51点の加点を得た。しっとりとした曲調の「月の光」に身を委ねるように、その後もジャンプを全て成功。表現などが評価される演技構成点もトップのザギトワに0・68点差の35・15点をたたき出し、浜田美栄コーチは「アクセルを跳べたって勝てない子はいっぱいいる。総合力があるから上にいける」と勝因を挙げた。

同じ02年生まれの五輪女王の陰で、ジュニアを舞台に力を蓄えた。五輪は「前年の6月30日時点で15歳以上」の制限があり、昨年5月で15歳のザギトワはクリア。一方で7月21日生まれの紀平は、必然的に1年遅れで背中を追った。ジュニア1年目だった16年には2度直接対決し、1勝1敗。今年9月のシニア初戦後には、飛ぶ鳥を落とす勢いで五輪を制したザギトワの名を挙げて「アイスショーが一緒の時に、いろいろ学んだりする。一緒の舞台で滑るとワクワクするんじゃないかな」と胸を躍らせた。

それでも特別な感情は封印。この日は午後9時開始のSPに備え、午後3時から1時間半爆睡した。大舞台にも高ぶりすぎることなく、思い切った時間の使い方で「昼寝をしっかりしていたので良かった。体が全然違う」と心配を消した。

シニア1年目で優勝すれば日本女子13年ぶり快挙だが、頂点も、ザギトワも意識しない。「『大きな大会だから頑張る』とか関係なく、どの試合でも同じように成績を残したい」。中1日で心身を整え、真の実力を世界に証明する。【松本航】

◆紀平梨花(きひら・りか)2002年(平14)7月21日、兵庫・西宮市生まれ。4歳で競技を始め、15年全日本ノービス選手権で3回転5種7本を決め優勝。16年ジュニアGPスロベニア大会でトリプルアクセルを決め、女子で史上7人目の成功者となった。17年には全日本ジュニア選手権を初制覇。同年全日本選手権3位。154センチ。