16歳紀平梨花は3回転半だけでない 芸術面も急進

グランプリファイナルを制覇し、金メダルを首に日の丸を掲げる紀平。左は2位のザギトワ(撮影・菅敏)

<フィギュアスケート:グランプリ(GP)ファイナル>◇8日(日本時間9日)◇カナダ・バンクーバー◇女子フリー

シニア1年目の紀平梨花(16=関大KFSC)が初出場優勝の快挙を飾った。女子ショートプログラム(SP)に続き、フリーも1位の150・61点をマークして自己ベストの合計233・12点を記録。平昌冬季五輪(ピョンチャンオリンピック)金メダルで前回女王のザギトワを総合力で上回り、ロシア勢5連覇を阻止した。日本勢でGPデビューシーズンの優勝は05年浅田真央以来、男女通じて13年ぶり2度目の快挙。日本勢のこの大会優勝は13年浅田以来5年ぶり3人目。

さりげなく拳を作った紀平が、笑顔で決めポーズをほどいた。同じ16歳の五輪女王ザギトワを超える得点を目にし「おお!」。表彰台の頂点で君が代を歌い「演技としては、優勝できるか分からないと思っていた。練習を頑張ってきて良かった」とその一瞬を目に焼き付けた。

午前練習で成功率75%のトリプルアクセル(3回転半)は冒頭の着氷時、前かがみで両手をついた。それでもミスを引きずらず、2本目の3回転半には2回転トーループをつけ、2・06点の加点を導いた。「2つ目で切り替えができて、そこから後に悔いはない」。ジャンプは次々と決まり、メリハリのついた振り付けでも、波と雷の音に包まれる地球を表現。浜田コーチは「対応能力が出てきて、お姉さんになった」と抱擁で出迎えた。

日本女子5年ぶり優勝は紀平が世界に認められた証しでもある。「あなたのいいところはトリプルアクセルだけじゃないよ」-。そう浜田コーチに送り出され、演技構成点は5項目中4項目で10点満点の9点台をマーク。9月のシニア初戦から3カ月足らずで「演技表現」「音楽の解釈」など1項目平均0・76点を底上げした。

大技頼りにならず、ジャズ、ヒップホップなど数種類のダンスや、バレエを受講。シニア1年目からジャッジの評価を高め、ザギトワと合計0・30差だった演技構成点が自らを助けた。

兵庫・西宮市生まれで練習拠点は大阪の関大リンク。年齢制限で今年の平昌五輪の出場資格はなかった。3月の世界ジュニア選手権は8位。ムラのあった中学生は今春に高1となり、シニア負け知らずだ。

「本当にたくさんの失敗をして、学ぶことがあった。失敗をイメージすることで『もう1度、そうなりたくない』と思い、集中力の持っていき方が分かった」

順風満帆ではないからこそ、先にシニアへ上がったザギトワを超えても「もっといい演技をしてくると思う。(19歳で迎える)北京五輪優勝という夢があるのでそれまでは安定した成績を残したい」。現在はトーループやサルコーの4回転ジャンプも練習中で来季投入も視野に入れている。4年後への夢物語は、まだ序章だ。【松本航】

<紀平梨花アラカルト>

▼生まれ 2002年(平14)7月21日、兵庫・西宮市

▼経歴 4歳で競技を始め、小5から平昌五輪4位の宮原知子らを指導する浜田美栄コーチに師事。15年全日本ノービス選手権で3回転5種7本を成功させて優勝。17年は全日本ジュニア選手権初制覇、シニアに交じった全日本選手権3位。今春に西宮市立上ケ原中を卒業し、現在はネット高校「N高」1年

▼トリプルアクセル 16年9月のジュニアGPスロベニア大会で初成功。国際スケート連盟公認大会では伊藤みどり、浅田真央らに続いて女子世界7人目

▼運動能力 幼少期に通った西宮市の広田幼稚園では、跳び箱8段を跳び「今でも疲れるまで逆立ち歩きができる」

▼憧れの選手 浅田真央、宮原知子

▼趣味 音楽鑑賞

▼血液型 O型

▼身長 154センチ