塚原夫妻、パワハラ「無罪」も異論と処分を訴える声

一時職務停止が解除になった塚原光男、千恵子夫妻

日本体操協会は10日、都内で臨時理事会を開き、リオデジャネイロオリンピック女子代表の宮川紗江選手(19=高須クリニック)へのパワハラ行為が認められなかったとして、塚原光男副会長(70)と塚原千恵子女子強化本部長(71)に科していた一時職務停止を解除したと発表した。問題を調査した第三者委員会は、塚原夫妻に不適切な点が多々あったと指摘したが、パワハラの事実は認定せず、処分に至らなかった。

日本体操界の中心として長く引っ張ってきた塚原夫妻への判定は「シロ」だった。都内で会見した日本協会の山本専務理事は、「パワハラの認定はありませんでしたが、運営体制に対して真摯(しんし)に対応し、選手第一主義で、まい進していく所存です。スポーツ団体の模範となる団体を目標に努めていく」と、二木会長のコメントを代読した。

先立って行われた臨時理事会で、9月10日から11月25日まで、25人への聞き取りなどによる第三者委員会の調査結果が報告された。ヒアリングを受けた宮川選手の主張のうち、<1>暴力指導問題に関して速見コーチと引き離す行為があったか、<2>言うことを聞けば優遇され聞かなければ排除される権力の暴力があったかを中心に調べられ、結論は「引き離し行為は認められない」。7月15日に2人が宮川選手から速見コーチからの暴力行為を聞き取りした際の行動も、「配慮に欠け不適切な点が多々あったとはいえ、悪性度の高い否定的な評価に値する行為であるとまでは客観的に認められない」とされた。

日本協会は6日に報告書を受領。臨時理事会の冒頭では光男氏が「大変お騒がせしました。副会長の立場で適切でなかった行動も多々ありました。体操界の名誉を落としたことも反省している」と謝罪した。

ただし、報告書では宮川選手に対する「(家族が)宗教みたい」と千恵子氏の発言などに、「塚原夫妻の態度が『終始高圧的な態度』であって、同選手の側から見れば、『パワーハラスメント』であると感じさせてしまっても仕方がないものであった」との指摘もあった。認定はされなかったが、理事会では続投決定に選手を守る趣旨での異論、処分を訴える声が出たという。塚原夫妻はともに任期が切れる来年で役職を終える意向を示しているが、「不適切な」発言をした事実に、将来的な不安はゼロではない。日本協会は今後、夫妻に対し、再発防止への取り組み方について報告させることで対処する。

これで騒動が収束するのか。完全決着まではまだ遠い決定となった。【阿部健吾】

◆第三者委員会が前提とするパワハラの定義 同じ組織で競技をする者に対し、職務上の地位や人間関係などの優位性を背景に、指導の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与え、競技活動の環境を悪化させる行為。それは、単に一般的に不適切だけでなく、違法性を帯びたり、懲戒や懲罰の対象となり得るようなもの、通常、人が許容し得る範囲を著しく越えるものを言う。その概念を前提として認定する。(日本体操協会の発表による)

<体操パワハラ問題の経過>

◆7月11日 日本体操協会に速見コーチのパワハラに関する通報が入る

◆30日 協会が速見コーチに聞き取り調査。暴力行為を認める

◆8月13日 協会が速見コーチに無期限の登録抹消などの処分通知

◆20日 速見コーチが東京地裁に地位保全を求める仮処分の申し立て

◆21日 宮川選手が代理人弁護士を通じ「パワハラされたと感じていません」などと処分に疑義を呈す

◆22日 宮川選手が所属先のレインボーとの契約解除

◆29日 協会が「暴力は許容することはない」などと見解を発表。宮川選手が会見し「(処分の)重さは納得できない」など主張し、塚原夫妻から「パワハラを受けた」と告白

◆30日 協会が第三者委員会設置決定。塚原千恵子女子強化本部長が「私は黙ってない」と反論

◆31日 速見コーチが仮処分の申し立てを取り下げる。塚原千恵子女子強化本部長らが訴えに対する見解を文書で公表。その中で証拠とする録音テープの存在を公表

◆9月2日 塚原夫妻が「宮川選手に直接謝罪したい」との文書を発表

◆5日 速見コーチが会見。暴力行為を謝罪し、改心した上で宮川選手の指導を続けていきたい考えを示す。塚原女子強化本部長が朝日生命への引き抜きを「していない」と否定した件は、真っ向否定

◆7日 協会が第三者委員会を設置

◆10日 協会が臨時理事会を開き、塚原光男副会長と塚原女子強化本部長の職務一時停止を決定