強敵米18歳ゾウ直撃、羽生&チェンへの思い激白

ビンセント・ゾウ(左)と浜田美栄コーチ(2019年4月10日撮影)

フィギュアスケートの今季最終戦で2年に1度開催される世界国別対抗戦が11日、マリンメッセ福岡で開幕する。

6カ国が男女シングル各2人、ペア1組、アイスダンス1組の4種目8人で争う今大会。2連覇を目指す日本の強敵となるのは米国だ。エースは男子シングルで3月の世界選手権を制したネーサン・チェン(19)。加えて注目を集めるのが同選手権3位のビンセント・ゾウ(18)だ。大会前のゾウに直撃し、躍進の理由に迫った。【取材・構成=松本航】

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今、男子フィギュア界で急成長を続けている男がいる。シニア1年目の昨季は平昌冬季五輪(ピョンチャンオリンピック)6位。今季の世界選手権では優勝したチェン、2位の羽生結弦(ANA)と並び、米国男子として23年ぶりのダブル表彰台の1人となったゾウ。少しシャイな普段の姿がうそのように、10日の前日練習では手を挙げての4回転ルッツを決めた。現在の成功例で最も基礎点の高い単発ジャンプに、工夫を加えられる潜在能力。まだどこかにあどけなさを感じるゾウは、静かな口調で誓った。

ゾウ 練習の感じは良かったです。失うものがない試合なので、新しいことにトライしてみたい。手を挙げての4回転ルッツもそう。いろいろなことに挑戦できる場だと思っています。

平昌五輪前年の17年世界ジュニア選手権で優勝。シニア2年目まで順調に階段を上がってきたように思えるが、13歳で右膝の半月板を断裂。2年間は思うように滑れない挫折もあった。

拠点は米コロラドスプリングズ。女性のタミー・ギャンビル、男性のトム・ザカライセック両コーチとの絆は強い。さらには5年ほど前から日本の浜田美栄コーチの指導も受けるようになった。教え子の振り付けや合宿で同地を訪れる浜田コーチから30分単位のレッスンを受け、現在はメインコーチではないものの、その距離感は近くなった。

さいたま市で行われた今季の世界選手権(3月23日閉幕)後も、ゾウは関大のリンクで練習した。ギャンビルコーチが股関節の治療を行っている兼ね合いもあり、浜田コーチの下でトレーニングを積んだ。男女の違いはあるが、グランプリ(GP)ファイナル女王の紀平梨花(16)、平昌五輪女子4位の宮原知子(21)らと刺激を与え合う日々。ゾウは感慨深そうに言う。

ゾウ 関大の周りの選手と一緒に練習をしていると、基礎のスケーティングが勉強になるんです。僕は膝が内側に入ってしまう癖があるけれど、それを真っすぐにできるように。浜田先生からもそう、アドバイスを受けています。

一方の浜田コーチは、ゾウの潜在能力に驚きを隠さない。「ハムストリング(太もも裏)がすごく発達している。瞬発力がすごくて、天井に当たるんじゃないかというぐらい」。4回転はルッツ、フリップ、サルコー、トーループの4種類を習得。近年、悩まされていた回転不足の問題も、米国、日本でのトレーニングから引き出しを得ることで、出口が見えてきた。

ゾウ 浜田先生にはジャンプを跳ぶときの体重の乗せ方、足の向け方など、細かなところを教えてもらいます。そうすると、むしろ今はオーバーに回ってしまうぐらいになれた。ジャンプ以外にも基礎的なスケーティングを学んでいます。肩、腕、頭の使い方。その部分は、かなり成長していると実感します。

まだ粗削りではあるが、22年北京五輪に向けて着々と自信をつける18歳。世界選手権後の記者会見では「私はまだ実感が湧いていない。最高の結果になりました」と普段の様子より、少し興奮していた。その壇上には今後もしのぎを削っていくであろう、チェンと羽生がいた。今のゾウにとって、2人の存在とは-。

ゾウ 僕が国際大会に出る前からネーサン選手、羽生選手はトップクラスでやっている。ずっと憧れのような存在なんです。ただ「いつかは彼らに追いつきたい」「いつかは彼らに勝ちたい」とも思っています。まずは「勝ちたい、勝ちたい」と思いすぎるのではなく、「自分自身が成長することで勝つ」ということを目指します。

世界国別対抗戦は今季の最終戦であり、来季への足がかりとなる。親しみを持つ日本から、ゾウの新しい挑戦が始まっていく。

◆ビンセント・ゾウ 2000年10月25日、米サンノゼ出身。5歳でスケートを始め、17年世界ジュニア選手権優勝。18年平昌五輪ではショートプログラム(SP)12位から、4回転を5本入れた構成で6位まで浮上。浜田コーチのことは、日本語で「ハマダセンセイ」と呼ぶ。国際スケート連盟公認大会での自己ベストはSP100・18点(19年4大陸選手権)、フリー186・99点(19年世界選手権)、合計281・16点(19年世界選手権)。現在の世界ランクは6位。175センチ。