水谷隼「球自体が消える」と悩み抱え卓球世界選手権

世界選手権の本番会場で新調したサングラスを着用する水谷隼(撮影・三須一紀)

【ブダペスト22日=三須一紀】卓球世界選手権個人戦のシングルスが23日から始まる。平成元年(89年)に生まれ、日本男子卓球界を世界クラスに押し上げた水谷隼(29=木下グループ)が、最後の世界選手権個人戦に挑む。昨今ショーアップされる会場内の光の影響で「球が見えない」という目の状況を抱える中、20年東京五輪までに行われる個人戦最大の大会で、どれだけの実力が発揮できるのかが試される。勝ち進めば4回戦で同ランク3位林高遠(中国)と、準々決勝で馬竜(同)と当たる厳しいブロックに入った。

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「光」の影響を受けると球が見えるのは「ネット間際」、見え方を例えると「車のライトから突然、ボールが出てくる感じ」と水谷は語る。球の回転が見えないどころの話ではなく「ボール自体が消える感じ。もちろん、回転も全く見えない。改善しないと、勝ち目ゼロ。本当に。1%もないですね、今の状態だと」と厳しい言葉を続けた。

水谷が問題視する「光」とは2つ。LED看板広告と照明。LEDはコートを囲うように置かれ、選手の目線にある。看板に白やグレーの文字が表示されると、白い球と同化してしまうという。

演出重視の観点からコートと観客席を「明暗」にくっきり分ける照明も、卓球台周辺に強い光が集まり、球を見えにくくしている。ともに3月末のカタールオープンでは「今までで一番、見えていなかった。ほとんど見えなかった」とまで語った。

東京五輪を最後に日本代表から退くことを明言しているが、光の問題がなければ「続けられるかもしれない」とまで話す。他の選手はどうなのか。

女子の伊藤美誠は3月、LEDについて「ラリー中に変わらなければ大丈夫。ただ文字の白はやめてほしい」、照明は「真上にライトがあると、かぶってしまいボールが白いので見えない。投げ上げサーブ出す選手がたくさんいるので、そこは感じている。選手も全員思っていること」と、程度の差はあるにせよ、同様の問題意識はあった。

五輪では広告がないのでLEDの心配はないが、照明は同様。来年の東京五輪へ向け、水谷は日本協会に要望を重ねたというが「周りを暗くするのを変えるのは、なかなか難しいと聞きます」と話した。

今回その対策として、2月末のTリーグから改良を重ねた新サングラスを着用する。以前のものでは「ボールの回転まで見えなくなってしまった」と、レンズの色合いを薄くした。うまくいけば東京五輪まで継続使用する可能性もある。

ただ、協会や東京五輪大会組織委員会がだまって日本選手の要望を見過ごしているわけではない。照明に関しては、会場の東京体育館の天井からLED照明を仮設でぶら下げる予定だが、選手に配慮した計画を検討している。“地の利”を生かせるよう、運営側も試行を重ねている。

16年リオデジャネイロ五輪でシングルス銅メダル、団体銀メダルを獲得後は「ボーナスステージのようなもの」と表現した水谷。それでも「東京五輪には出たい」と言い切る。これまでに味わったことがない焦りもある。

東京五輪には来年1月時点の世界ランクで日本人上位2人が個人戦に、団体戦は協会推薦で決まる。水谷は4月時点で13位と日本人3番目。「20年が近づくにつれて、プレッシャーが増す。団体戦にも入れるか分からない。これまで試合に出場できるか分からない状況が過去にはなかった。出られなかったらショック」と正直な思いを口にした。ランキングの基となるポイントが高い世界選手権は、東京を見据え、大事な大会となる。