八村育てた明成・佐藤久夫コーチ「日本の大将に」

八村への思いを明かす明成・佐藤コーチ(撮影・鎌田直秀)

高校バスケットボール界の強豪・明成(宮城)佐藤久夫コーチ(69)が、教え子の米ゴンザガ大・八村塁(21)のNBAドラフト1巡目指名を喜んだ。21日、仙台市内の同校で心境を明かし、来年の東京五輪で日本代表のエースとなることも期待。精神的に弱かった入学当時、高校選手権3連覇、渡米後のさらなる成長などを懐かしむだけでなく、「八村塁2世」育成にも気持ちを高めた。

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佐藤コーチは、八村と3年間過ごした体育館で、幸せをかみしめた。予想以上に評価された9番目指名の吉報に「年をとって涙もろくなって、泣いてしまった。塁くんは明成の9回生なので、9と9でちょうど良いんじゃない」と笑顔も見せた。ドラフト直後には八村から電話がかかってきて、約5分間談笑。「先生に感謝しています」(八村)「何も出来なかったから、そんなこと言うな」を繰り返す押し問答もあった。「『フライト時間が長くてたばこが吸えないのも我慢して米国に来てほしい』とも言ってくれました」。NBAでの勇姿も心待ちにした。

言葉でも成長を促してきた。入学当初は目を合わせて会話できないほど内気で、優しすぎる性格が、プレーではマイナス要素だった。「最初は『ハングリーになれ』でしたね」。人をかき分けてでも前に出る強い気持ちの形成が礎になった。1年冬には「『ハーフの大将になれ』とね。前向きになりました」。ベナン人の父からは強い体を受け継ぎ、日本人の母からは優しさ。「常にファミリー感覚。チームの兄貴」。シュートを外し続けて試合中に涙する仲間を抱きしめ、リバウンドを全部拾う決意を伝え、自信を回復させたこともあった。

『実るほど頭(こうべ)を垂れる稲穂かな』の言葉も伝え続けた。ゴンザガ大の今季最終戦を観戦し、現地で久しぶりの再会。「感謝の気持ちも忘れていない。体だけでなく人間的にも大きくなったなあと感じましたね。次は日本の大将になってほしい。東京五輪では日本代表のエースで活躍」。期待は高まるばかりだ。

“八村2世”育成が次の目標でもある。突然「彼に負けないくらいの選手」と報道陣に逸材を紹介。高2だった八村に全国総体で握手を求めたこともある山崎一渉(いぶ)。父はギニア人で197センチ、87キロの大型1年生だ。「塁くんみたいな選手をもう1度育てられたらコーチとして少し本物に近づけるかな」。教え子の快挙に、恩師も大きな活力を得た。【鎌田直秀】