東京五輪 伝説の名勝負を 石原慎太郎氏の思い

インタビューに応じる石原慎太郎氏(撮影・足立雅史)

2005年8月、東京都知事として「五輪招致」を表明してから14年。1年後に迫った東京オリンピック(五輪)に、作家石原慎太郎氏(86)は何を思うのか。64年東京五輪は開会式や閉会式、競技もスタンドで観戦。今もヨットを駆るスポーツマンは、五輪招致の原点となった当時の思い出を語り、56年ぶりの東京五輪に「伝説の名勝負」を期待した。五輪開催後の東京についても触れた。

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-東京五輪まであと1年。実感は

あまりないね。前に騒ぎ過ぎて、竜頭蛇尾に終わらなければいいけど。始まれば、非常に白熱した競技大会になるでしょう。日本が大活躍してもらいたいよね。

-成功のカギはどこにあると思う

たくさん人が集まればいいんです。ほっといても集まりますよ。

-64年東京五輪の開会式や閉会式、競技もいくつか観戦した

グラウンド競技の優勝国の国歌演奏はトラック競技にしろ、フィールド競技にしろ、全部(メダルを多数獲得した)米国だった。あの時は国歌を最後までは演奏しなかったんですよ。しかしその続きを2人の米国人がバックスタンドで、朗々とトランペットで最後まで吹くの。吹いていたのは、米国の肉屋と八百屋の普通のオヤジでしたよ。小生意気でね。こしゃくだけど、美しい愛国心だと思ったな。あの2人を見て、今度、東京でやる時はもっと君が代を聴かせてやるぞ、と僕は思った。もう1回、東京で五輪をやりたいと思った理由だね。

-当時7歳だった長男伸晃氏を64年東京五輪開会式に連れて行った

子供心に印象に残るだろうから、親心から連れていったんですよ。

-やはり若い世代、次世代に五輪をじっくり見てもらいたい気持ちがある

それはもちろん。強く印象に残るでしょうからね。

-五輪との出会いは3歳。ベルリン五輪日本代表のコスチュームを着て、当時住んでいた小樽市内の写真館で、弟の裕次郎さんと一緒に記念撮影した

(父親が)親バカだから、同じユニホームを着せてね。2人で撮らされましたよ。裕次郎は写真屋に行くのを嫌がったけどね。

-ヨット、テニス、サッカー、スキューバダイビングなどさまざまなスポーツに親しんできた。今もヨットに乗っている

僕はヨットマンだからね。海は俺の第2の人生の舞台だな。(64年東京五輪の2年前の62年に)日本で初めて国際試合出たのは僕だし、沖縄レース(72年~)小笠原レース(79年~)も作った。優勝もしましたけどね。でも、もうそろそろ限界かな。この間もレースに出たけど(15年に患った脳梗塞の)後遺症で、揺れる船の上でのバランス感覚が悪くなっている。

-ボクシングに熱中する「太陽の季節」の主人公など、数々の小説にスポーツが登場する。「肉体派」として、さまざまな形で長年かかわってきたスポーツの魅力とは

「肉体の酷使」ですよ。肉体を酷使すれば、精神が強くなる。達成感があるよね。

-ヨットだけでなく、サッカーでは高校時代に県大会優勝経験もあるが、悔しい思いをしたこともある

天才的な才能を持っている人間っているんだよな。これはやっぱりかなわないよね。湘南中学サッカー部に入って、毎日、練習を一生懸命やったけど、試合のシーズン近くになると出てくるヤツがいるんだよ。フットワークのいいそいつがレギュラーになって、俺は悔しくてね。1年間頑張って最後のシーズンが始まる前の試合に、仲間の足をケガさせてもいいからと思って、めちゃくちゃ暴れた。ボールを奪い取って向かいのゴールまで持っていき、駆け込んで帰ってきた。最後に、キャプテンが「石原」って(レギュラーに)指名した。その時、ざまあみろと思ったな。

-ウィンブルドン選手権ジュニア男子シングルスを制した望月慎太郎(16)の「慎太郎」は、父親が石原慎太郎ファンだったことから名付けられたそうです

それはうれしいね。いつか手合わせしなきゃ。

-過去に比べ、世界で頂点を狙える選手が確実に増えた。今回、日本のメダル総数は、29枚だった64年東京五輪よりも多く取れると予想している

取れるでしょう。専門家じゃないから、誰に期待できるか分からないけど。

-64年東京五輪開会式及び閉会式の観戦記を日刊スポーツに寄稿した。今回も、ぜひお願いします

暇と命があったら、行きますよ。

-あと365日。東京五輪に最も期待することは

いくつか名勝負は欲しいよね。劇的なもの。伝説に残るような名勝負がね。

【清水優、近藤由美子】

◆石原氏とスポーツ ヨットは中学時代から始め、湘南中高、一橋大でサッカー部に所属。一橋大では柔道部にも所属した。そのほかテニス、ゴルフに親しみ、40歳でスキューバダイビングを始めた。また、スポーツにまつわる作品を多数手掛けている。「太陽の季節」のほか、「若い獣」ではボクサー、「飛べ、狼」では英マン島TTレースのレーサー、「星と舵」では太平洋横断ヨットレースに参加した若者、「海の家族」では船乗りの兄弟を描いた。