乙黒拓斗が五輪決め雄叫び 相手“変身”にも動じず

男子フリースタイル65キロ級で優勝し、五輪内定を決めた乙黒拓(撮影・鈴木みどり)

<レスリング:全日本選手権>◇22日◇東京・駒沢体育館◇男子フリースタイル65キロ級

男子フリースタイル65キロ級の乙黒拓斗(21=山梨学院大)が東京オリンピック(五輪)切符をつかんだ。決勝で中村倫也(24)に10-0のテクニカルフォール勝ち。表彰台で内定だった9月の世界選手権は5位に終わり、出場枠のみの獲得にとどまった。前世界王者は敗北から学び、優勝で選考基準を満たした。

女子50キロ級は17、18年世界女王の須崎優衣(20)がアジア予選(3月、中国)進出を決めた。

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試合直前、乙黒拓は中村の風貌に目を見張った。朝の計量ではフサフサだった髪がない。直前に五厘刈りに仕上げた頭に「びっくりしましたけど、冷静でしたから」。さわやかに笑って振り返る。今大会、鍵は冷静さだった。

9月の世界選手権は自滅だった。長所でもある熱くなる本性が裏目に出た。判定にいら立ち、憤る。隙が生まれ、3位決定戦で敗れた。内定を逃し、失意の中で足りないものを模索した。2カ月後、自問の結果は「精神面。熱くなるのを褒める人も、ダメという人もいて。結局熱くならないような考え方にした」。

18年世界選手権を日本勢史上最年少で制した才能の塊は、圧勝が日常だった。1点でも許すと、怒りが沸騰することも。小幡コーチに諭されたのは「吉田でも伊調でも負ける」。敗北に慣れることこそ、課題だった。練習で点を許しても、以前のようにいらだつことも少なくなっていった。

決勝までの3試合も同じ。失点しても、淡々と加点した。決勝の中村戦も、組み手争いでリードを奪い、好機を確実に仕留めた。3分弱で試合を終わらせ、「シャーー!」と雄たけびを上げる直前まで、落ち着きを体現してみせた。

父正也さん(46)の誘いで4歳で競技を始めた。74キロ級優勝の兄圭祐も含めた父子は、マットを敷いた自宅の8畳間で強さを磨いた。小学校卒業の文集で「オリンピックに連れていってあげるね」と親に誓って約10年。「遠回りだったけど、良かった」「兄と2人で金メダルを取りたい」。負けからは十分に学んだ。あとは勝ち続けるのみ。【阿部健吾】