Wリーグ秋田の「歴史的1勝」小嶋裕二三HC最善尽くし飛躍につなぐ 

16日、東京羽田戦でクンバ(左から2人目)に指示を与える小嶋HC

今季からWリーグに新規参入し、21年10月23日の開幕戦から84日。アランマーレ秋田がホーム東京羽田戦でWリーグ初勝利を収めた。17試合目でつかんだ「歴史的1勝」。選手の証言を踏まえ、小嶋裕二三ヘッドコーチ(HC、54)がここまでの18試合を振り返り、今日22、23日のシャンソン化粧品戦を含めた残り6試合に向けて気持ちを引き締めた。(敬称略)【取材・構成=相沢孔志】

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1月15日午後2時42分。秋田・由利本荘市のナイスアリーナに試合終了を告げるブザーが鳴り響いた。開幕から16連敗中のアランマーレは敗戦を知らせるブザーを聞き続けてきたが、この日は違った。東京羽田に73-66で勝利。選手やファン、チームに関わるすべての人々が待ち望んだ瞬間に歓喜した。試合後、小嶋は開口一番こう振り返った。

小嶋 ホーム最終戦でようやく初白星を挙げることができました。ファンの方の応援や声援を受けたこと。ここまで苦しい試合ばかりでしたが、選手たちが経験を糧にして、何とかホームで勝ちたいという気持ちがこの結果を招いてくれたと思います。

指導者歴は約30年。女子日本代表に携わった経験もあり、デンソーでは東京五輪代表の高田真希(32)らを指導した。何度も大舞台に立ち、日本最高峰を知るからこそ、最初は「最悪」も想定していた。

小嶋 (本年度は)最悪全敗だと思っていました。我々は13番目のチームですし、社会人の地域リーグでも勝てず、実績がない中で参戦するわけですから。結果も100点ゲームばかりされると…。冗談でWリーグ初の200点ゲームが起きるかもしれないという覚悟を正直していました。

開幕当初のチームの平均身長は、リーグ最小の168・4センチ。“高さ”という大きなハンディに対し、相手に走り負けない運動量と機動力、リバウンドで競り合うことを徹底した。ゴール下を主戦場にする大卒1年目の嘉陽梨佳子(23)は開幕前、小嶋の言葉を肝に銘じた。

嘉陽 頑張ろうと思ったのは「我々は運動量で勝たないといけない」という言葉です。私たちは小さいチームですし、小嶋さんは運動量で勝とうと思っていると感じました。私は今、4ポジ(パワーフォワード)ですが、絶対に相手の4ポジの選手に負けないくらい走ろうと思いました。

バスケットボール文化が根強い秋田。期待を背負って航海へ出た船に荒波が容赦なく押し寄せた。相手の高さや当たりが強い攻守に屈し、試合後半に勢いが失速。主導権を握られて大敗した。昨年11月中旬から年末にかけては上位のデンソー、富士通、ENEOS、トヨタ自動車と連戦。強豪に食らいつき、徐々に試合内容は改善されたが、金星は遠かった。

小嶋 (試合の)前半は健闘したことがありましたが、最初にやられている分、盛り返しても点差がありました。ディフェンスで粘って、相手が攻める回数を少しでも減らさないと我々は厳しい。オフェンスのミスやディフェンスで簡単にやられて、相手の攻撃回数が増えて攻め込まれることも多かったです。

ケガやコンディション調整による選手の欠場も相次ぎ万全ではなかった。11月下旬には平松飛鳥主将(27)が捻挫で戦線離脱。主将を欠いて挑んだENEOS戦。指揮官は2試合とも両軍最多得点をマークしたエースを高く評価した。

小嶋 砂川(夏輝、26)の突破力はなかなかだった。昨季シーズンMVPの岡本(彩也花)選手に向かって行きましたし、王者のチームに対して吹っ切れて戦っていたと思います。

砂川は選手が決める副主将に本年度から就任。開幕前は「なぜ自分なのかなと思ったんですけど、みんなの意見で決まったこと。任せてもらえた期待に応えたい。キャプテンのサポートをしながらチームを引っ張っていかなければいけない」と意気込んでいた。連敗中に起きた平松主将の離脱に気持ちが高ぶった。

砂川 みんなの助けを借りながら、私なりのやり方で引っ張っていこうと思います。

1試合平均13・61得点は現在リーグ10位でチーム最多。ドライブでインサイドに切れ込み、得点源となった。小嶋は「現時点で強いてMVPを挙げるなら砂川」とした上で、期待を込めて選手たちに注文した。

小嶋 順位は低いですが、個人タイトルの得点とアシストに名前があるのは砂川だけ。ただ砂川が抑えられてしまうとどうしても厳しくなってしまう。最低でもこれぐらいは(得点が)期待できるという2番手が出てこないといけないですし、砂川は守備を強化されてもアタックできる選手になってほしいと思います。

22年最初の試合となった山梨2連戦からはアーリーエントリーで190センチのニアン・ンディ・クンバ(23=日本経大)と嘉数唯(22=筑波大)が出場。秋田出身の高野柚希(22=東京医療保健大)も合流し、チームに新風を吹かせている。

小嶋 今は(入団内定の)5人のうち3人が合流しています。インカレベスト8から嘉数、優勝チームから高野が来ました。スキルは高いですし、競技にかける気持ちもすごく強い。(既存の選手と)一緒に練習することで質も1段階上がった気がします。

山梨戦から1週間後の15日は、砂川が両軍最多26得点。古巣戦だった平松が11得点、6アシスト。クンバが11得点、7リバウンドと躍動。既存と新戦力が融合し、初勝利を地元のファンにプレゼントした。翌16日は第4Q序盤に連続得点で振り切られ、初の2連勝はお預け。新たな歴史を刻んだ2日間を指揮官はこう総括する。

小嶋 勝利は率直にうれしかったですし、やってきたことが正しかったという証しになった。今後のチーム作りや強化の方向性を全員で共有できた。これだけファンの方が喜ぶ姿を見た選手はWリーグで戦うのではなく、勝つことの重要性を学んでもらえたと思います。2連勝で次の週を迎える経験をしたかったですが、やはり神様が「まだまだそれは調子が良いんじゃないか」と…。「もう少し勉強しろ」というお告げがあった気がします。

今季は残り6試合で22、23日はシャンソン化粧品戦。参入初年度の戦いは今後も続く。

小嶋 1勝できた勝因は(試合前の)1週間にやってきたことができたこと。我々がやるべきことを全うすることをもう1度、徹底したいと思います。

信条は「最善を尽くす」。1つでも高い順位にチームをいざない、最後まで「Challenge!」を貫いて、来季以降の飛躍につなげる。

◆小嶋裕二三(こじま・ひろふみ)1967年(昭42)7月23日生まれ、横浜市出身。中和田南小-泉が丘中-松陽高-青学大。91年にNECコーチで指導者に。98~00年は女子日本代表アシスタントコーチ。98年アジア大会金メダル獲得に貢献。99~00年は鷺宮製作所コーチ。00~08年は山形銀行ヘッドコーチ。06年に兵庫国体優勝。08年にデンソー・コーチ就任。10~18年まで同ヘッドコーチ。20年4月にアランマーレ秋田ヘッドコーチ就任。