【柔道】大野将平が初戦で敗れる「真っ向勝負できた」2階級上の90キロ級前田宗哉を攻める

1回戦で前田(右)に敗れた大野(撮影・足立雅史)

<柔道:全日本選手権>◇29日◇日本武道館

東京オリンピック(五輪)男子73キロ級で2連覇を遂げた大野将平(30=旭化成)が、初戦で敗れた。

関東王者の前田宗哉(自衛隊)と対戦。大外刈りを打ち合った結果、巻き込まれて有効を取られた。

相手も大外刈りの名手。もう1つの武器である内股を封印し、大外刈りにこだわった。中盤からは用意していたともえ投げ、残り10秒を切ってからは袖釣り込み腰も仕掛けるなどバリエーションの豊富さも見せ、攻めに攻めた。

14、17年大会に続く5年ぶり3度目の出場。14年大会以来2度目の勝利はならなかったが、2階級上の90キロ級の選手に対し、真っ正面から、がっしり組み合った。その姿には場内から大きな拍手が降り注いだ。待て、がかかるたびに歓声も沸いた。

V2を果たした東京五輪以来の実戦復帰、かつ日本武道館。「五輪後、一番の目標だった。1試合まで戻ってこられて、久々に皆さんの前で柔道をすることができて誇りに思う」と万感の思いを語った。

21日の練習公開(天理大)では「真っ向勝負で大外刈りを打ちにいく。柔よく剛を制す、の言葉は私の辞書になかった。軽量級らしく、の気持ちもサラサラない」と語っていた。宣言通り。試合後の取材では、まず前田に感謝した。

「前田選手も小細工なしで組み合ってくれたので、正面から、足を止めて大外刈りを打ち合うことができた。大外、ああやって巻き込まれたところに体重差は感じたけど、私自身、受け入れているし、前田選手がオーソドックスな戦い方をしてくれた時点で、組み手を捨てて。ノーガードの打ち合いをさせていただきました」と振り返った。

首や肩などのけがで「実際に稽古できたのは2週間くらい」。それでも「出る意味を考えたが、皆さんの前で柔道をすることが今後の柔道人生の強い原動力になると信じて強行出場した」。そして「こだわりを捨てられなかった。バカだなあと思いながらも、あれで良かったと思えるように今後の柔道人生を歩んでいきたいです」と4分間を戦い切った。

表情はすがすがしく「自分自身の限界を感じましたし『柔よく剛を制す』は幻想に過ぎないな」とも語った。その上で「軽量級、重量級、関係なく真っ向勝負できた。非現実的な戦い、ノーガードの打ち合い。決して組み手がへたとか小細工ができないわけではないが、不器用なので、楽しさの方を求めてしまう」と自身の挑戦を表現した。

大会前には「最後になりそうな予感がある」と話していた全日本。今後については「今は、今日もう1試合、もう2試合やりたかった思いが強い。この感性を持ち帰った時に自分の心がどのような動きを見せるのか。自分自身でも楽しみにしたい」と言い、聖地を後にした。【木下淳】