B1秋田のお手本は沖縄アリーナ 26年始動「新B1」参入へ8000人規模新施設構想

沖縄アリーナで行われたCS琉球戦でフリースローを打つ秋田田口(中央)。右上は510インチの大型ビジョン(撮影・山田愛斗)

<B1秋田ノーザンハピネッツの挑戦:後編>

Bリーグ誕生10周年の26年に昇降格のないプロ野球型のトップカテゴリー「新B1」が始動する。今季、チャンピオンシップ(CS)に初出場し、飛躍したB1秋田ノーザンハピネッツも、国内最高峰リーグ参入を見据える。だが、入会のハードルは高く、<1>2季連続で平均入場者4000人以上 <2>売上高12億円以上 <3>収容人数5000人以上など新B1基準のアリーナがある-3条件が必須。クラブは自助努力で<1><2>を達成した上で行政にも働きかけ、<3>では8000人規模の新アリーナ建設を目指す。「B1秋田ノーザンハピネッツの挑戦 後編」は新アリーナ構想を紹介します。

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新B1に向けて秋田に欠かせないピースが「夢のアリーナ」建設だ。お手本となる施設は、5月13、14日に琉球ゴールデンキングスとCS準々決勝を戦った沖縄アリーナ。昨年12月の天皇杯に続き2度目の訪問となった水野勇気社長(39)は「これがずっと僕が描いてきたアリーナです」と話し、「初めて見たときに直感的に感じたのは、こういうアリーナが全国にできれば、Bリーグが本当に第3のメジャースポーツになっていくと思いました」と心を揺さぶられた。

Bリーグはプロ野球、Jリーグの国内2大スポーツほど定着していないが、全国38都道府県にB1からB3のクラブがある。空白地帯は山梨、三重、福井、和歌山、鳥取、徳島、高知、宮崎、大分の9県のみ。バスケットボールを通じた地域活性化は、まだまだ大きな可能性を秘めている。

秋田はCS初出場で4強入りを逃したが、沖縄アリーナはプレーした選手にとっても特別な空間だった。

中山拓哉主将(27)は「より選手が輝ける場所だと感じました。ああいうアリーナが秋田にできれば選手も、見る方々もより楽しい場所に、よりひとつになれる場所になると思う。すごいアリーナができることを望みます」。

田口成浩(32)も「(Bリーグ)ファイナルの舞台と同じぐらいに思いました。有明コロシアムや横浜アリーナとか1万人規模の会場でプレーさせてもらう感覚です。ファイナルを毎試合できるようによろしくお願いします」。

国内最高峰の箱をホームにする琉球のレギュラーシーズン平均入場者は、BリーグNO・1の4763人。5月4日千葉J戦は8263人が訪れ、CS準決勝島根戦は同21日の第1戦が8020人、同22日の第2戦では今季最多8309人が来場した。

一方、今季の秋田はホーム最終戦の3432人が最多動員で、平均入場者はリーグ8位の1958人だった。本拠地CNAアリーナで行われた過去最多は4909人(立ち見含む)で、18年5月13日のB2プレーオフ熊本戦で記録した。平均入場の最多は19-20年の3402人だ。新B1に参入するためには平均入場者4000人以上、売上高12億円以上が必須条件。少なくとも1試合あたりの入場者を600人増やし、今季売上高の約9億円(見込み)から3億円アップする必要が出てくる。

ハード面では行政の協力が不可欠だ。秋田県は老朽化した県立体育館を建て替える予定で新施設は28年頃の完成を目指している。クラブとしては新B1基準に該当するアリーナになることや、建て替え時期の前倒しを県側に要望。新アリーナ稼働による経済効果は、クラブ独自の試算で年間20億円を見込んでおり「官民一体」で作りたい考えだ。

新B1の初回入会審査は24年10月に行われる。まずは22-23年(来季)、23-24年の2シーズンで平均入場者4000人以上、売上高12億円以上をクリアするのが大前提。新アリーナについては新B1がスタートする26-27年に間に合わなくても、3年目の28-29年開幕で使える状態にすれば、条件付きで初年度から参戦できる。ただし、初回審査までに施工者(予定者)、実施設計の計画が決まっているなど、その確実性を証明する高いハードルがある。水野社長は言う。

「平均4000人が一番の肝だと思っています。年内の10月にスタートするシーズンで平均4000人で推移していき、秋田県の議会、県民の皆さんに対しても『我々はこれだけお客さんを入れて盛り上がっています』というのを何としても示していきたいです」

bjリーグ時代の14年、秋田で行われたオールスターゲームの際に新アリーナ構想を発表し、8年が経過した。「『そこから進んでないじゃないか』と思われるかもしれないですが、ずっとチャンスをうかがってきました。今がまさに実現するチャンスだと思っています」。県立体育館建て替え計画を追い風にする。

秋田に新アリーナができればBリーグ以外の屋内スポーツ、有名アーティストのコンサート、展示会などさまざまな目的で使用でき、来県者増加にもつながる。「東北で随一の8000人規模のアリーナを実現させたいです」。B1に昇格した仙台89ERSがホームにするゼビオアリーナ仙台は、東北最大級のアリーナだが、総座席数は4009席。その2倍となる施設を目指している。

「ハピネッツ」のチーム名には幸せを共有できるような存在でありたいという願いが込められている。「僕は間違いなく新B1で戦っている秋田ノーザンハピネッツがある街が楽しいと思います」と水野社長。新アリーナを完成させ、県民にハッピーとワクワクを届けるために、秋田は挑戦し続ける。【山田愛斗】

■極上のエンターテインメント空間

沖縄アリーナは極上のエンターテインメント空間で、まさに「夢のアリーナ」といえる。観客数はバスケットボールが8300人超、コンサート等で使用するセンターステージバージョンは1万人を収容できる。すり鉢状に観客席が配置され、コートレベル、1、2、3階席どこからでも試合が見やすく、本場米国のNBAをほうふつとさせる。

アリーナ天井からは510インチの大型ビジョンがつり下げられ、選手紹介など大迫力の映像と音響でブースターのボルテージを上げる演出が可能だ。2階席と3階席の間には横長のリボンビジョンがあり、試合中はスコアやスポンサー名を表示。それを貫くような縦長のビジョンにはコートに立っている選手の得点数、ファウル数がひと目で分かる工夫がなされている。

新アリーナ基準に含まれるスイートルームが30室設置され、パーティー等ができるラウンジや飲食を楽しみながら観戦できる席もある。コンコースにはスマートフォンの充電コーナー、トイレの混雑状況を確認できるモニターも完備。また授乳室や幼児が遊べるスペースがあり、家族連れを意識した環境が整う。アリーナ正面のグッズショップや各階の飲食売店は、プロ野球楽天の楽天生命パーク宮城、J1神戸のノエビアスタジアム神戸のように完全キャッシュレスだ。

Bリーグ以外ではB’z、小田和正、あいみょんといった人気アーティストのコンサート、総合格闘技RIZIN、展示会などが行われ、変幻自在の最新鋭施設となっている。【山田愛斗】