仙台志村雄彦社長、B1定着そして新B1参入へのビジョン語った「ベースを作っていく1年」

B1昇格の瞬間の心境、新シーズンの構想、新B1参入のビジョンなどについて語った仙台89ERS志村社長(仙台89ERS提供)

バスケットボール仙台89ERSは5月16日、B2プレーオフ(PO)を勝ち抜き、16-17年シーズン以来となる6季ぶりのB1復帰を果たした。日刊スポーツ東北版は、16-17年シーズンに選手としてB2降格を経験した現在のチーム代表・志村雄彦社長(39)にインタビュー。B1昇格決定の瞬間の心境や、10月から始まる22-23年シーズンの構想、さらに26-27年シーズンから始まる「新B1参入」のビジョンについて聞いた。【取材・構成=濱本神威】

流れたのは安堵(あんど)の涙だった。5月16日、B1昇格まであと1勝に迫ったプレーオフ(PO)準決勝、香川戦。1勝1敗で迎えた第3戦を83-69でものにし、悲願のB1昇格にようやくたどりついた。

涙の志村社長は「ホッとしたのが一番。新体制になって(B1昇格まで)4年かかりましたが、皆さんの思いが通じたことにホッとしました」と、感動よりも安堵が強かったと率直な思いを口にした。「僕らクラブだけではなく、仙台の皆さん、ご支援してくださったスポンサーの皆さん、そして、ファンの皆さんの『ナイナーズをB1に復帰させたい』という思いが、本当に強く、そしてそれが1つになった。それがチームに伝わってチームが結果を出した。この町全体がB1昇格へ押し上げてくれたと思っています」と21-22年シーズンを振り返り、あらためて、わが街“仙台”に感謝した。

「来季は、12人ないし13人でスタートしていきたい」。29日現在、22-23年シーズンの仙台の陣容は、11人が確定。昨季主将を務めた「JB」こと、ジャスティン・バーレル(34)をはじめ、8人が契約を継続。B1名古屋ダイヤモンドドルフィンズから小林遥太(30)が移籍し、トルコ1部リーグで活躍した208センチのビッグマン、ネイサン・ブース(28)の獲得を発表。さらに29日には、B1三河、京都でプレーした加藤寿一(28)との契約合意が発表された。志村社長は「藤田(弘輝)ヘッドコーチ(HC、36)が2年目。HCが目指すところへの継続性が非常に重要だと思っています。B1昇格を決めたメンバーをコアのメンバーとしながら、しっかりと補強し厚みを持たせていきたい」と構想を披露した。

B1チャンピオンシップ(CS)出場経験のある小林は、ポイントガード(PG)としてのゲームメーク力や守備でのハードワークが魅力。さらに、ネイサンの多彩な攻撃力やパスのスキルは新たな武器となり、B1経験豊富な加藤は、チームの攻撃を徹底できる姿勢と守備の遂行力が魅力だ。志村社長は現在の陣容について、「ほぼ良い状態。B1東地区という非常に苦しい地区で戦い抜く編成は進んでいると思います」と自信を見せる。40分間、強度の高いディフェンスを徹底する“仙台89ERSのバスケット”が新しい陣容で進化することは間違いない。

新シーズンの目標は「B1残留及び日本一を目指せるクラブの基盤をつくること」だ。志村社長は「(新シーズンは)B1での戦いのベースを作っていく1年にしたい。(B1は)B2の戦いとは違う。上位進出を狙えるだけの戦力を整えられるうちにしっかりとB1に残留し、その先に向かえるようなチームを来年つくりたい」と意気込んだ。

B1で戦い続けるチームづくりはそのまま26-27年シーズンから始まる予定の「新B1」参入にもつながっていく。新B1の入会基準は「入場者数平均4000人以上」「売上高12億円以上」の2つ。まず、「入場者数平均4000人以上」の足がかりとして4月17日に行われた第31節福島戦で「4000人動員プロジェクト」を実施。3329人と、残念ながら4000人は達成できなかったものの、最高のホームアドバンテージを得て、試合は82-61で快勝。志村社長は「仙台のポテンシャルや規模に加え、コロナ禍もふまえると、4000人を集めるというのは非常に難しかった。だが、そういう環境の中でもおかげさまでB2の集客4年連続1位となる3300人以上を動員させていただきました。(新B1の入会基準は)非常に高い目標ではあります。一気に達成するのは難しいので、目の前のことを1つ1つしっかりとやっていきたい」と先を見据えた。

1歩ずつ地道に仙台のやり方で新B1に近づいていく。「(新B1は)一筋縄には行きませんが、地道な活動を通して、皆さんにナイナーズを知っていただいて、会場に来ていただけるような活動を開幕までしっかりとやっていきたい」。志村社長はそうした地道な活動の一例として、コロナ禍で減少した選手とブースターとの交流を挙げ、「スポーツ選手の影響力は非常に大きいと思います。実際に会ってコミュニケーションを取り、顔を知ってもらって、応援していただけるようなチームを求めていきたい」。新たなステージで戦うため、ブースターとの結束をより強固なものにしていく。

18-19年シーズンから掲げるチームスローガン「Grind!」には「どんなに苦しい状況でも、歩みを止めることなく、つらいことも、退屈なことも、苦しいことも、すべて粘り強く、泥臭く乗り越えてやろう」という思いが込められている。コロナ禍や主力選手のけがなど多くの困難を乗り越え4年がかりでB1に到達した仙台が、さらに強く大きな組織となるため、新たな試練に立ち向かう。

◆志村雄彦(しむら・たけひこ)1983年(昭58)2月14日生まれ。宮城県出身。10歳でバスケットボールを始め、将監中-仙台高-慶大。仙台高では2、3年時にウインターカップ連覇を果たし、3年時に国体優勝も経験した。仙台89ERSでは08~11年、11~18年の計10シーズンプレー(11年は東日本大震災でチームが一時活動停止したため、琉球へレンタル移籍)。18年、現役を引退。引退後、仙台ゼネラルマネジャーを経て、20年7月から代表取締役社長に就任。