【わたしのツクリカタ】宇都宮ブレックス渡邉裕規編 <3> バスケから離れた時に受けた衝撃

2月5日新潟戦での宇都宮渡邉裕規(コピーライトB.LEAGUE)

アスリートの生い立ちや人生のターニングポイントを聞く「わたしのツクリカタ」。宇都宮ブレックスの渡邉裕規(34)は世田谷学園から青山学院大に進学。そこで生涯尊敬できる先輩に出会った。

渡邉 大学も結局、バスケで入っているから。もちろん、勉強は大変でしたけどね。でも大学はもっとレベル高い選手がいますから、3つ上がいるから。大学は4年生がいるから。その人たちがスーパーだったんで。もう引退しましたけど、正中さんという方、アルバルクのキャプテン、2連覇しているんですけど、その人が一番模範でしたかね、入ったとき。境遇も似てて、高校も全然有名じゃなくて、正中さんも。あの人も点取り屋で、ぼくもどちらかというとそういうタイプで、大学からPGで、そういうのも似てて。なにかこう指導してくれたってことはないけど、マッチアップして練習したりして、なんかメンタル的な部分とか思想的な部分とか、青学のバスケっていうのはこういうのがあるよとか。一番尊敬している方。

◆正中岳城(しょうなか・たけき) 1984年9月15日生まれ、兵庫県加古川市出身。明石高校から青山学院大に進み、2007年にトヨタ自動車アルバルクに入団。ポジションはPG、SG。アルバルク一筋で13シーズンプレーし、2020年に現役を引退。現役時代の背番号7はアルバルク初の永久欠番。現役時代のサイズは身長180センチ、体重78キロ 足のサイズは27.5センチ。血液型O型。元日本代表。

-よくしゃべったりしていたんですね

渡邉 あんまりないですかね、でも一緒に帰ったりしたことはあるけど。でもその程度。でもなんか一番勉強になったというか、プロになってアルバルクにいって活躍されて、そういうふうになりたいなと思った。

-正中さんの言葉で最も印象に残っていることは

渡邉 そんなにしゃべる人じゃないです。でもおしゃべりはうまいですね、言葉に力がありますね。Bリーグの初年度の開幕宣言もあの人がやっているんですけど、すごいですよ。そういうところもすばらしい。人間性も。あともうひとり、岡田さんっていうアルティーリでプレーしている先輩。その2人が僕の二大巨頭で。岡田さんは月バス(月刊バスケット)なんかに出てて、昔から。その2人には影響を受けましたね、大学の時には。

◆岡田優介 1984年9月17日生まれ、東京都出身。土浦日大から青山学院大に進み、トヨタ自動車アルバルクに入団。2015年つくばロボッツに移籍し、その後は広島、千葉、京都に所属。2021年から現在まで、アルティーリ千葉でプレーしている。身長185センチ、体重80キロ。公認会計士の資格を持つ。元日本代表。

-2人の先輩とはいまでもつながりがある

渡邉 会うことはありませんけど。岡田さんはB2だし、正中さんはやめちゃったし。でも正中さんもリング(Bリーグ優勝記念)を2つ持っているし、ぼくも2つ持ってますけど。そういうのに近づけたらうれしいなっていうのはありますけど。

ここでいったん話は途切れた。渡邉の口からチャンピオンリングの話が出てきたタイミングで、私はどうしても聞きたいと思っていた「あのこと」に触れた。2017年、Bリーグ初代王者に輝いた直後、渡邉は電撃的に引退した。

-1度引退した5カ月間は何をされていたんですか

渡邉 ただただ、ある意味社会勉強というか、それこそバスケットを母体に生きてきて、29年やって、20年たって、バスケットでしか人として形成されていない人間が社会に出たりとか、一から社会を学ぶ。それができるという思いはあったんですけど、自分はこんなこともできないのかという衝撃を受けました。普通の生活をして、たとえばコピーしてこいとか、あるじゃないですか、普通の生活をしてるとネクタイを締めるとか、あるじゃないですか、常識的な。意外にできなかった。いままでトレーニングやってもゴミを捨ててくれる人がいたし、マッサージしてくれる人もいたし。そういう生活は当たり前じゃないって分かってはいたんだけど、実際体感すると、やっぱり、どっぷり甘い蜜を吸っていたんだなっと思って。

渡邉 だから甘い蜜をまた吸いに帰ろうという訳じゃないですけど、結局そういう時にフラットになると、あれだけ大きい口をたたいて辞めたんだから戻るなっていうのが天使だったりするんですよ。いやもういいじゃん、いま何がやりたいの? バスケットに戻りたいの? 戻ればって悪魔ですよ。でもそれが1分後には逆になるんですよ。戻れというのが天使だったり、戻るなというのが悪魔だったり。社会に出ると物事に対する愛とか誠意とか熱意、ぼくにもあったつもりなんですけど、全然レベルが違って。物事、仕事に対して。それに一番ショックを受けたかな。ぼくがコピーもできないような、雑務もできなかったとかあるんですけど。ぽっと外に出てみると、自分が何もできないことに気づかされました。

-自分を客観的にみることができた

渡邉 だから、そう思ったときにショックを受けますよ。バスケットを離れるとそうなるのか、そうならざるを得なくなるのか。一方でバスケットで名前を知られている、一方ではまるで知られていない、なんだお前は? ってなる。で、うまく(自分自身)統制が取れなくなりましたね。あの時。まあ、自分の選択なんで。(続く)

◆渡邉裕規(わたなべ・ひろのり) 1988年3月22日生まれ、神奈川県川崎市出身。世田谷学園-青山学院大-JBLパナソニックを経て、2013年に栃木ブレックスに加入した。日本代表には4大会で選ばれている。栃木のFM局「RADIO BERRY」で毎週木曜日にパーソナリティーも務めている。

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