【カーリング】賛否の声、見えない重圧「正直怖かった」混合ダブルス専念でV、谷田康真が示す道

3年ぶり2度目の優勝を収め、笑顔を見せる松村千(左)と谷田(C)JCA IDE

<カーリング:混合ダブルス(MD)日本選手権>◇26日◇北海道稚内市・みどりスポーツパーク◇決勝

その男にのしかかっていた重圧がふっと消えた。

松村千秋(30=中部電力)谷田康真(28)組は3大会連続で決勝に臨み、8-7で逆転優勝を飾った。1次リーグから9戦全勝で、3年ぶり2度目の栄冠をつかむと、シート上でハグを交わし、ほおを緩ませた。

谷田は喜びをかみしめると、脱力するように両手を膝についた。目には見えない“敵”から、解放された瞬間だった。

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小穴桃里(27)青木豪(23)組との決勝は、壮絶な試合となった。第1エンド(E)でいきなり4点を献上。暗雲が垂れこめた。

松村千は心の中で「わー、やっちゃったなぁ」とつぶやいたが、谷田の冷静な声で平静を保った。「声をかけてもらって、切り替えることができました」。

第2E以降に1点ずつを返し、徐々に迫った。7-7でエキストラエンド(延長戦)に入ると、第9EではNO・1をキープ。相手にプレッシャーをかけ続け、勝ち切った。

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混合ダブルスに懸けてきた。

同種目は18年平昌オリンピック(五輪)から正式に採用されたものの、日本からは出場できていないのが現状。谷田は22年の北京五輪で、南半球のオーストラリアから出場したチームを目にした。混合ダブルスに専念しているペアだった。

「4人制でやっている選手がその時々で世界選手権へ行ったとしても、オリンピックに行くのは難しいと思いました。トップの選手がトライしないと、カーリング界が先に進まないなという思いが僕自身の中にありました」

思いは日に日に強まった。松村千に相談すると「自分たちで新しい道を切り開いていくのがベスト」という言葉とともに、賛同の意を示された。

ただ、谷田は当時、4人制のコンサドーレに所属。19年から日本選手権で3連覇も果たしていた。

混合ダブルスへの専念は、築いてきた立場を捨てることを意味する。そもそも「混合ダブルスに特化する」という発想が、国内には浸透していなかった。

「正直、怖かったです」

意を決して、昨年6月にチームを退団すると、周囲からは賛否両論が聞こえてきた。葛藤を覚えた。苦しさも感じた。ただそれでも、自分に言い聞かせた。

「言われるのは注目されているあかしだ」

今シーズンは中部電力でリザーブに回った松村千とともに、海外ツアーに参戦。1月上旬の米ツアーでは優勝も果たし、確かな手応えを得ていた。

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迎えた今大会。谷田は「競技人生でこれまで感じたことがないほどのプレッシャー」と格闘していた。大会期間中の取材では、表情をゆるませることなく、淡々と言葉を発した。1次リーグを全勝で突破しても、気を引き締め続けた。

その動じない姿勢は、決勝の舞台で“強さ”となって現れた。4点を先制されても、いたって落ち着いている自分がいた。

「混合ダブルスは1点ずつ返していけばいい。決して厳しいスタートでもないのかなと。今までの経験上、そう思っていたので、どう勝つかというプランを考えていました」

一投一投に力を込め、ハックを蹴った。そうしてようやく勝利を手にした時、屈託のない笑みがこぼれた。開幕6日目で、初めて見せた表情だった。

松村千は試合後のことを回想し「ハイタッチがすごく痛かったな」と冗談めかしつつ、振り返った。

「谷田選手の顔を見た時に、いい笑顔をしていたので、勝ったんだなと実感しました」

その斜め後ろでほほえんでいた谷田は、自らが格闘してきたものを打ち明けた。

「予選のどの試合で勝っても、試合が終わった直後も、ずっと何かがのしかかっているようで。こんな経験はなかったんですけど。多分、それを何とか見せないように自分でしていたんだと思います」

穏やかに笑いながら、言葉を紡ぎ続ける。

「結果的に暗い表情に見えたかもしれないですけど、そうしていなければ、自分が負けてしまいそうなほど、プレッシャーを感じていました」

谷田の口からは、これまで決して言い表すことのなかった思いが、とめどなくあふれていた。

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2人は4月下旬の世界選手権(韓国)へ出場する。昨年4月の同選手権では、6勝3敗ながら、1次リーグ敗退となった。

谷田は世界の厳しさを肌で感じてきた。だからこそ、ここからが勝負だと思っている。

「日本は今までメダルに届いたことがない。でも僕らが目指すのはそこなので。去年はかなり近いところまで行けました。(メダル獲得へ向けて)1戦1戦、チャレンジしていきたいです」

1次リーグの時と同じようなまなざしで、よどみなく言い切った。

前例にとらわれていては、新たな景色を見ることはできない。

重圧を抱えながら、覚悟を決めて、アイスに立ち続ける。【藤塚大輔】