【フェンシング】「史上最強」日本 最年少19歳飯村一輝が歴史塗り替える パリ五輪まで500日

フェンシング世界ジュニア選手権の男子フルーレ個人で金メダルに輝いた飯村一輝(左)とエルワン・ルペシュー・コーチ(日本協会提供)

来年7月26日のパリ五輪開幕まで、今日14日で500日となる。「史上最強」の呼び声高く、1大会では日本初の複数メダル獲得が期待される競技がフェンシング。中でも、2月のW杯カイロ大会団体戦で12年ぶりに優勝した男子フルーレが好調だ。日本代表最年少19歳の飯村一輝(慶大)は、同種目初の五輪制覇を目標に掲げる。銀メダリスト太田雄貴のコーチだった栄彦氏を父に持つ新星が、歴史を塗り替える。【取材・構成=木下淳】

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フェンシング発祥国の1つ、フランスで行われる五輪。飯村は「いよいよ選考レースが始まる緊張もありつつ、ワクワク感が強まっている」と目を輝かせた。4月3日~来年4月1日の主要国際大会で獲得したポイントで各国の代表が決まる。東京五輪は17歳での初出場を僅差で逃しただけに、来夏に懸ける思いは強く「団体も個人も出て金メダルを目指したい」と燃えている。

夢物語ではない。日本男子フルーレは現在、世界ランク3位。東京五輪時の6位から浮上し、今季W杯は3大会連続でメダル獲得中だ。その中で飯村は、昨年12月の東京大会では6点ビハインドから試合をひっくり返して準優勝に貢献。今年2月のカイロ大会でも得点源となり「松山恭助主将を中心に敷根崇裕さん、鈴村健太さんと戦略を共有し、一致団結できた」と金メダルに輝いた。W杯制覇は、ロンドン五輪団体銀メンバーの太田、三宅諒らが11年に遂げて以来だった。

存在感を増す19歳は、小学1年から本格的に剣を握った。父栄彦さんが太田のコーチで「生まれた時からお世話になってきた」。基礎からスピードを生かしたスタイルまで似通っており「太田さんの速さは異次元だけど、自分も一瞬で(相手との間合いを)ゼロ距離に詰める瞬発力が武器」。同じ龍谷大平安中高出身の直系“太田2世”だ。

初の代表入りは「自分以外、全員お酒が飲めた」という15歳の時。全日本選手権の成績は高校2年で制した大先輩には及ばないものの、同1年から2年連続で3位に入った。学業も優秀で2年時にオール5を達成。スポーツ推薦のない慶大に進んだ。コロナ禍の影響で海外遠征に出られない期間が続いていたが、同大学入学直後の昨年4月に出た世界ジュニア選手権で優勝。同月のW杯ベオグラード大会では3位に食い込み、太田を4カ月上回る日本選手最年少の18歳3カ月でW杯のメダルを手にした。

「ラウンド64止まりから一気に…。世界でも通用することが分かって自信になった」と殻を破った。「平均身長183センチと言われる男子フルーレ界で(自分は)169センチ。いかに懐へ速く潜り込むか、(171センチの)太田さんを参考にしつつ自分なりに改良して」コントルアタック(カウンター攻撃)も磨いてきた。

五輪初の金メダルこそ東京大会の男子エペ団体に譲ったが、やはり日本のお家芸はフルーレだ。太田の08年北京個人と12年ロンドン団体の銀を超える種目初の頂点へ「まずは代表に選ばれるよう勝ち続けつつ、夢舞台でエペ陣に続けるよう頑張ります」。500日後の開幕を20歳で迎える飯村が、パリ五輪の星になる。

◆フェンシング日本代表の近況 エペは、東京金の男子団体が昨年7月の世界選手権でも初の銅。見延和靖(35)は個人で銀に輝いた。加納虹輝(25)は今年2月のW杯で2勝目と底上げが進む。フルーレは男子の松山恭助(26)が昨年のW杯で初優勝、女子団体もW杯2大会連続で3位に入っている。サーブルでは江村美咲(24)が昨夏の世界選手権を日本女子で初めて制し、同初の世界ランク1位にもなった。男子の吉田健人(30)も21年のグランプリで種目初の銅と、全3種目でパリ五輪でメダルを狙える位置にいる。一方で、国際連盟(FIE)は3月10日の臨時総会でロシアの国際大会出場許可を決定(五輪競技初)。東京五輪で金3個のチームが戻れば現在の勢力図は激変する。

パリ五輪のフェンシングは来年7月27日から8月4日まで、1900年パリ万博の主会場だった美術館グラン・パレで行われる。

◆飯村一輝(いいむら・かずき)2003年(平15)12月27日、京都府生まれ。太田と同じ大山崎町の京都フューチャークラブで競技を始め、小中高日本一。19年の高円宮杯W杯東京大会で中学生史上初の予選突破。22年はアジア大会団体金メダル、世界選手権も18歳で本戦に進出した。慶大総合政策学部1年。妹の彩乃(高2)も女子フルーレ日本代表として昨年W杯デビュー。弟の要(中1)との同時代表入りも夢。趣味は携帯ゲームと音楽鑑賞。右利き。169センチ、64キロ。血液型O。