卓球の世界選手権(南アフリカ・ダーバン)が20日から開幕する。その模様を21日から連日生中継で届けるテレビ東京の同大会アンバサダーに就任したのが21年東京五輪混合ダブルス金メダリスト水谷隼氏(33)。このほど、大会展望や56年ぶりの全種目メダルに挑む日本選手たちへの思いを語った。
一線を退いても卓球への情熱は変わらない。今でも各大会の結果や試合内容は細かくチェックしている。男子では日本人最高世界ランキング4位の張本智和(19=智和企画)に太鼓判を押し「安定感もあるし、去年の世界卓球でも素晴らしいプレーで中国選手を2人破った。あの時のプレーができれば今回もメダルがとれると思う」と期待を込める。
懸念要素は「大舞台になった時に、メンタル的な部分で守りに入る癖がある」とし「強気なプレーは中国選手も防ぐことはできないと思うので、彼自身のメンタルの部分が最も結果に影響してくるのかなと思います」と語った。
1月の全日本選手権でその張本を破って連覇を達成した戸上隼輔(21=明大)の成長にも注目している。「国際大会はまだ経験不足で結果は残せてないですが、去年の世界卓球でも相手エースを何人か倒していますし、思い切ったプレーがしっかりできればメダルの可能性はある」と話した。
水谷氏自身も何度も出場経験のある世界卓球の舞台。その難しさについて聞くと、卓球王国の中国代表監督からかつて聞いたという言葉を引用し「『五輪はメンタルが試されて、世界卓球は技術が試される』とよく言っていました。その通りだと思います」と力を込めた。「世界卓球だとメンタルで崩れる中国選手は見たことがない」とも振り返り「やはり技術や戦術で相手を上回らないと勝つのは難しい」とした。
24年パリ五輪へ向けても大事な大会だ。24年1月まで続くシングルス代表選考レースの中でも、今大会の結果で得られるポイントは大きい。その中で「女子の伊藤選手に関してはちょっと心配な部分がありますね」と東京五輪でペアとして共に金メダルを獲得したかつての相棒、伊藤美誠(22=スターツ)に触れた。
伊藤は直近大会で不調が続き、上位2位までがつかめるパリ五輪代表選考レースで現在7位。「この半年間くらい苦しんでいるな、調子が上がっていないなと心配しています。もともと彼女のメンタルは上がったり下がったりと変化があるタイプ。今までは勝っているからまだ冷静だったのかなと。負けが続いてきたことによって、一気に乱れてしまっているのかなという印象です」。
伊藤は直近の大会で試合中にコーチを入れずにプレーすることもあった。その姿については「コーチとの関係性は複雑で難しいですが、今の状況が良くないというのは間違いない。卓球ではコーチの力は大きいので。試合中に自分が思っているのと同じことをひとつ言ってくれるだけで背中を押されることもある。世界卓球では入るのではないかなと思いますけど、コーチとの信頼関係も心配ですね」と語った。
自身も現役時はコーチともめることが少なくなかったという。「しょっちゅうコーチを変えていましたし、負けた直後などは少しは熱くなっているので『あれが良くなかったから負けちゃったんだよ』とか強く当たっちゃうことがあって。そうするとコーチもそのあと何も言えなくなる。でもそうなると次の試合で何をしていいのかわからなくなるし、悪循環でどんどん悪化していったこともありました。その関係性は本当に難しい」と語った。
伊藤についても今大会は浮上のきっかけをつかむためにも重要な一戦。水谷は「リラックスしてプレーすることが一番大事。勝ちたいと思うと良いプレーはできないし、一番はのびのびと、卓球が楽しいと思ってプレーすることが何よりだと思う」とエールを送る。
選考レースという観点から見た伊藤の現在の心境については「めちゃくちゃ焦りはあると思います。ここでメダルを取らないといけないプレッシャーはすごく感じていると思います」と自身の経験も基に選手目線で分析。「今の選考システムは試合に出れば出るほどポイントが増えて、減点はない。そうなると故障が怖くなってきますし、今は全員がけがをしないようにプレーすることも考えていると思います」。その言葉の通り、選手はギリギリの状態での戦いが続いており、今大会では男子の篠塚大登(19=愛知工大)が腰痛で出場辞退。伊藤も臀部(でんぶ)に痛みを抱えており、背水の陣からの逆襲を狙う。
水谷は現役選手から相談を受けることもあると明かした。昨年の世界卓球の期間中は男子の戸上、及川瑞基(25=木下グループ)と連絡を取り合い、試合内容についてアドバイスを送った。「一番気になったポイントを送ったり、メンタル的にこうした方がいいよと言ったり、そこが良かった、あれがだめだった、みたいな話をしました」といい「今回も連絡がくるかもしれないですね。大舞台になると、どうしても今までと違うプレーになってしまう選手は多い。彼らの普段のプレーもずっと見ているので、どうして力が発揮できないのかを自分なりの目線で説明しています」。
最後に、南アフリカの地で戦う選手たちへのメッセージを聞いた。「僕は世界卓球でのシングルスのメダルが小さい時からの夢でした。それをかなえることができなかったので、選手のみなさんには僕の分まで活躍して頑張ってほしい。大きな舞台で結果が残せないと五輪で結果を残すのは無理だと思うので、この世界卓球が五輪だと思って、そういう準備と気持ちで臨んでほしいと思います」。
五輪金メダリストからの貴重な“金言”。水谷氏は大会中はテレ東の試合中継に出演して大会を盛り上げていく。【松尾幸之介】