【ラグビーW杯あと100日】松田力也“10番”背負う覚悟 前回控えの悔しさ、駆け引きで成長

21年10月、オーストラリア戦でペナルティーゴールを決める日本代表SO松田力也

<ラグビーW杯フランス大会あと100日・キーマンに聞く>

ラグビー・ワールドカップ(W杯)フランス大会(9月8日~10月28日)開幕まで、31日で残り100日となった。19年日本大会の8強超えを狙う日本代表は、6月12日の千葉・浦安合宿から本格始動。2大会連続出場が懸かるSO松田力也(29=埼玉)には、キーマンとしての期待がかかる。先発の背番号「10」に強いこだわりを持つ男が、4年前からの成長と覚悟を明かした。

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4年前の光景を、松田は忘れていない。19年9月28日。静岡・エコパスタジアムは騒然としていた。W杯日本大会1次リーグ第2戦。開幕時の世界ランク1位アイルランドを日本が追い詰め、後半18分、WTB福岡堅樹のトライで逆転した。残り10分。松田はピッチ際で「いつでも行ける」と出番に備えていた。足をつる選手もいた。しかし、投入の連絡はない。そしてベンチ前のスタッフが、手にしていた交代ボードを置いた。もうメンバー交代はなし-。出番が巡ってこないことを察した。

「歴史的な試合に出られない、選手としての悔しさ、歯がゆさがあった。振り返れば、コーチ陣の信頼がなかったのだと思います」

試合は勝利。チームで死力を尽くしてつかんだ金星はうれしかった。1次リーグ4戦全勝で準々決勝へ進み、過去最高の8強。だが、個人としては4試合の途中出場にとどまった。

心当たりはあった。前年11月のロシアとのテストマッチ。先発機会を得ながら、前半で10-22と苦戦した。チームで共有した戦術を実践した自負はあったがビハインド。後半、自身に代わって田村優がSOに入ると、チームは逆転した。

「受け身でした。『W杯に出られたらいい』という心。どうやって10番をつかむか考えるのが遅かった」

主力の田村のまねをし、同じような試合運びに終始していたが、同じ指示を送っても仲間の反応は違った。そうして「控え」の立ち位置が固まっていった。W杯を終えると同時に「2023年は10番で戻る」と誓った。

悔しさの一方で、大舞台の経験は大きな糧ともなった。所属の埼玉に戻ると、落ち着きが生まれ始め、コロナ禍を経て、トップリーグ最終年となった21年で手応えを得た。11戦無敗で5季ぶり優勝。指示をしたFWの動きで、仲間からの信頼も実感できた。代表では10月の強豪オーストラリア戦にフル出場。「じゃんけんで先にグーを出してきた相手に、パーを出す感覚」を体現した。戦術を遂行しながら、相手の陣形を見て自身の判断でキックパス。貴重なトライも演出した。

「自信を持てた。プランを理解しつつ、チームを動かせるようになってきた」

駆け引きも増えた。4年前はがむしゃら。今は相手の挑発も「何を考えているんだろう? となるはず」と笑ってスルーできる。昨年5月の左膝前十字靱帯(じんたい)断裂から復帰した今季のリーグワンは、準決勝で3ゴール、5PG、1DGのゴール成功率100%。代表の正司令塔に不可欠なキック技術も、4年をかけて向き合った。

「100日前になり『もう3カ月しかない』と感じます。W杯の悔しさはW杯でしか返せない。勝たせたい思いが、強くあります」

桜のジャージーの10番が持つ使命に、向き合う準備はできている。【松本航】

◆日本代表の今後 国内のリーグワンが20日に閉幕し、24日に6月からの活動に臨む代表36人、同候補10人が発表された。浦安合宿を経て、総数は10人ほど絞られる。8月中旬にW杯代表33人が定まり、イタリアへ遠征。同国とW杯前最後の一戦に臨み、そのままW杯開催地のフランスに入る。大会期間中は第1戦でチリ、第3戦でサモアと戦う、南西部のトゥールーズをベースキャンプ地とする。

◆松田力也(まつだ・りきや)1994年(平6)5月3日、京都市生まれ。6歳でラグビーを始める。京都・伏見工高(現京都工学院)で高校日本代表に選ばれ、帝京大では1年時から主力で4年連続日本一。17年にパナソニック(現埼玉)入団。16年6月のカナダ戦で日本代表デビュー。キャップは29。19年W杯は1次リーグのロシア、サモア、スコットランド戦、準々決勝の南アフリカ戦に途中出場。181センチ、92キロ。

<各国の現状と対日本>

◆チリ 過去の対戦はなし。昨年7月に31年W杯開催国の米国を2戦合計52-51で下してW杯初出場。SOフェルナンデスの雨中の6人抜きトライが、世界のトライ・オブ・ザ・イヤーに輝いた。17年にU20(20歳以下)日本代表がU20チリ代表に28-22で勝利。現代表フランカー福井、NO8マキシが出場していた。

◆イングランド 過去10戦全敗。昨年12月に代表ヘッドコーチ(HC)で元日本代表HCのエディー・ジョーンズ氏を解任。新体制で臨んだ欧州6カ国対抗は2勝3敗の4位だった。日本は昨年11月に対戦。セットプレーで劣勢を強いられ、CTBファレル主将のキックなどで失点を重ねて13-52と完敗した。

◆サモア 過去5勝11敗。直近は19年W杯1次リーグで勝利。フィジカルに強みを持つ。昨年、サモアやトンガにルーツを持つ選手らで構成するモアナ・パシフィカが、世界最高峰「スーパーラグビー」に参戦。南半球の強豪チームとの戦いで選手の経験値が上がった。7月22日に日本とのW杯前哨戦が組まれている。

◆アルゼンチン 過去1勝5敗。元世界最優秀コーチのマイケル・チェイカ氏が指揮し、昨季は敵地でニュージーランド、イングランドに勝利。強力FWを軸に精度の高いキックを誇るSOサンチェスらが引っ張る。7~8月に南半球4カ国対抗でニュージーランド、オーストラリア、南アフリカの強豪3カ国と戦う。