逆境でこそ自分に問う「わくわくしていますか?」くじけない筒香の人生哲学

メジャー3年目、パイレーツ筒香嘉智外野手(30)の単独インタビューを送ります。レイズからドジャース、マイナーも経験してパ軍へ。どんな状況下でも動じず、ただひたむきにプレーする姿、響く方は多いのでは。「自分自身と向き合い続けた」先に見る地平は―。

ストーリーズ

為田聡史


自由契約―。日本のプロ野球では〝戦力外〟の意味合いが強い。2021年5月11日、筒香はレイズのメジャー登録40人枠から外れた。

「レイズでそうなったときは、あまり実感がなかった。どうなんだろう…。やっているときって、何の怖さもない。むしろ、楽しんでやっていた」

メジャー特有のDFAという制度が適応された。球団は「10日以内に40人枠に戻す」「マイナー降格のためにウェーバーにかける」「他球団へトレード」「放出」のいずれかを選択する。事実上の戦力外扱いだった。

5月15日にドジャースとのトレードが成立した。ド軍合流後は3試合連続でスタメン出場。移籍から8日後には4番にも座った。

2022年5月20日付日刊スポーツ紙面

2022年5月20日付日刊スポーツ紙面

だが、6月9日に右ふくらはぎの張りで負傷者リスト入り。傘下3Aオクラホマシティーでマイナー調整を強いられた。実戦復帰後も不振が続き、7月7日に40人のメジャー登録枠からを外れた。

「自分と向き合い続けるしかない。ひたすら自分と向き合い続けていた。食事も、野球環境、移動もそう。マイナーの全部。日本では経験できないことだし、その時間というのは、僕にとっては今後、非常に奥行きが出る、奥深さが出る可能性が高いと感じた時間だった」

真夏のオクラホマシティーでは球場とホテルの往復だけの日々だった。遠征時はメジャーは大手航空会社のチャーター機だが、マイナーはLCCを使用。座席は狭く、大幅に遅れることが日常だった。試合前の球場での食事は午前中に空っぽになった。空腹を満たすために調理場の冷蔵庫をあさり、食パンにハムとチーズをはさんでほお張った。

グラブをカメラに向かって突き出す筒香=2021年1月13日

グラブをカメラに向かって突き出す筒香=2021年1月13日

「真剣に向き合うか、向き合っていないかだけの差だと思う。マイナーでもメジャーでも自分次第。わくわくしないと面白くない。わくわくできる状態は何かなと自分で探していた」

苦境といえば安易な表現になる。現状を糧にする必要がある。

「自分の深い部分の思いがないと、わくわくなんかしないなと。楽な方、浅はかな方を選んで、深い部分での自分と向き合うことを拒めば、不安ばかりが先行する。もちろん、不安もあるけど、深い部分で向き合おうとすること。わくわくしようとしているだけでは、わくわくできない。1つだけ明確なのは、深い部分と向き合おうとするから、わくわくするものが出てくる」

マイナーで過ごした7月は打率2割8分、5本塁打、16打点とアピールを続けた。8月も10試合で打率3割8分7厘、2本塁打、11打点と好調を維持。8月14日、米国内の移籍を許可したドジャースからFA選手として公示され、翌15日にパイレーツへの移籍が決まった。同時にメジャー昇格をつかみとった。

2022年8月17日付日刊スポーツ紙面

2022年8月17日付日刊スポーツ紙面

パイレーツでの初戦は、敵地でのドジャース戦だった。1点を追う9回に代打で登場。守護神ジャンセン相手に初球から積極的に振りにいった。3球連続ファウル後の4球目、95・8 マイル (約154・2キロ)の外角球を左翼線にはじき返した。メジャーでは5月26日以来の安打だった。

「相手に敬意がないという意味ではないので誤解はしないでほしい。あの打席は、相手どうこうでなく、僕自身の感情として『打てないわけがない』と思っていた。打てると分かって打席に入っていた」

地道な取り組みが結果へとつながり始めた。8月20日カージナルス戦で代打で1号ソロ。翌日には2戦連発の2号ソロ。23日のダイヤモンドバックス戦は代打で3号ソロ。26日のカージナルス戦も代打で4号2ラン。29日の同戦では右翼場外まで運ぶ5号サヨナラ3ランを決めた。

「いろんなものがつながりだしているなという感覚が強い。積み重ねでしかないと思う。人それぞれだけど、時間がかかって当然の部分はある。そんな簡単に何かを自分のものにできるほど甘くはない」

2022年8月22日付日刊スポーツ紙面

2022年8月22日付日刊スポーツ紙面

パイレーツ移籍後は打率2割6分8厘、8本塁打、25打点と息を吹き返した。11月29日、年俸400万ドル、1年契約でパイレーツ残留を決めた。

「今の状況、気持ちとしては1年契約だったということ。僕だけで僕が野球をしていない。体のこと、野球のこと、サポートしてくれている人がいる。僕が1人で戦っているという認識はない。本気で一緒に戦ってくれている人が周りにいる。実際に複数年のオファーがあったけど、僕のことをすごく理解してくれているから(代理人)ジョエルも『それでいこう』と言ってくれた」

筒香嘉智が筒香嘉智に問いかけた。

「今、あなたはどう生きていますか」

「道のない山を、全身を使って、止まらずに登り続ける」

荒々しく猛進する。そびえる山は高い。いばらの道を突き進む。わくわくしようぜ。