【深掘り】勝負したくないと思わせる「盾」となれる存在/和田一浩氏の考える強打者論①

最も卓越した打撃理論の持ち主でしょう。日刊スポーツ評論家の和田一浩氏が「強打者論」を展開します。序論、本論、結論。余すところなく送ります。(2020年5月19日掲載。所属、年齢などは当時)

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日刊スポーツ


#野球には夢がある- 日刊スポーツ評論家、和田一浩氏(47)の「強打者論」を3回にわたってお届けします。プロ19年間で通算2050安打319本塁打を放ちながら、シーズンで3ケタ三振が1度もない和田氏。第1回は「強打者」の条件を挙げながら、現役時代に“本物”と感じた選手を、ベテラン遊軍・小島信行記者に明かしました。

和田氏の年度別成績

和田氏の年度別成績

小島記者 今回は「強打者」にポイントを絞り、和田さんに伺います。

和田 よろしくお願いします。でも、ちょっと漠然としすぎて分かりづらいんですが、どんな話をすればいいですか?

小島 「広角に打てるアベレージヒッター」「1発のある長距離砲」「勝負強い打者」など、いいバッターを表現する言葉はたくさんあります。その中で和田さんが考える「強打者」とは、どういう打者なのかを教えていただけますか。

和田 そうですねぇ、ひと言で言うなら打線の「盾」になれるバッターかな。強打者か、そうじゃないかって、基本的には対戦相手が決めるもの。この打者とはまともに勝負をするのが嫌だな、って思わせる打者だと思います。

小島 なるほど。具体的には?

和田 チャンスで強打者の前を打つバッターと勝負する時、相手バッテリーは「後ろのバッターと勝負したくない」って思うでしょ? そうなると(与四球などを考えて)ストライクゾーンで勝負してくれる。当然、打つ確率は上がります。強打者の後ろを打つ打者も同じ。たとえば一塁が空いている状況で、強打者が勝負を避けられて四球で出れば、塁が埋まる。塁が埋まれば、次の打者とは勝負しなければいけなくなるじゃないですか。プレッシャーはかかるけど、ストライクゾーンで勝負しなければいけない状況を作り出せる。自分以外のバッターに、有利な状況を作れるのが強打者なんじゃないですか。

05年4月、楽天戦の1回表1死一塁、2号本塁打を放つ西武カブレラ。後ろは次打者和田

05年4月、楽天戦の1回表1死一塁、2号本塁打を放つ西武カブレラ。後ろは次打者和田

小島 打線の「盾」になるとは、他の打者の「盾」になるという意味ですね。そういう強打者が複数いると、相乗効果が出て強力打線になるでしょうね。

和田 でも強打者って、各チームにそんなにいない。広角に打てるアベレージヒッターは「好打者」でも、ある程度の長打力がないと「強打者」にはなれない。得点圏にランナーがいる時はアベレージヒッターでもいいけど、現代野球は外野のポジショニングも大胆に変えてくる。ランナーが二塁にいても、長打力が乏しい打者の時には外野手が簡単に前に出てくるでしょ? 終盤の僅差の場面になればなおさらで、極端な守備陣形をとる。そうなると、単打しかないバッターじゃ得点が難しくなる。

小島 連打で大量得点を挙げるのは難しいですし、長打が絡む方が、得点率は上がりますよね。

和田 あとは1発がある「怖さ」を持っていても、2割5分ぐらいの打率だと「いやらしさ」がない。たとえば、2死二塁の状況で3番打者と勝負する時。次の4番が1発はあっても三振が多いと、3番とはカウントが悪くなったら無理して勝負しなくなる。弱点があればそうなっちゃう。どんな状況でも「こいつとだけは勝負したくない」って思わせないと。当然、走者がいない時でもホームランで点が取れるって思わせる「怖さ」も大事ですが。

小島 ハードルが高いですね(苦笑い)。「怖さ」と「いやらしさ」を兼ね備えている打者が「強打者」ってことですね。歴代の強打者と呼ばれるバッターは、確かに調子が悪くても「間違ったらスタンドまで持っていかれる」とか「何とかするだろう」みたいな雰囲気があります。

和田 調子がいい時だけの強打者は、結構いるでしょう。でも“本物”は違うんですよ。

小島 今まで一緒にプレーした選手で、“本物”はどれくらいいましたか?

和田 西武でやってた時のカブレラ。全盛期は別格でやばかった。

02年西武優勝時の主なオーダー

02年西武優勝時の主なオーダー

小島 カブレラが4番で、和田さんが5番でしたね。カブレラがすごかったのも、5番が強打者だったからじゃないですか?

和田 いやいや、カブレラはそんな次元を超越してた。カブレラが調子が悪くて、俺が調子良くても、カブレラとは勝負を避けるような感じ。そんな時は、ネクストで待っていると「勘弁してくれよぉ」って泣きそうになってましたよ(苦笑い)。

小島 すごすぎる「盾」は、前を打つバッターにはいいけど、後ろを打つバッターは嫌なものなんですね。カブレラで覚えているのが、三浦(横浜、現DeNA)から打った180メートル弾。打った瞬間の打球音が爆発音みたいでした。打球を目で追えなくて、どこにいったか外野を見たら、西武ドーム(現メットライフドーム)の天井に当たった打球がグラウンドに跳ね返ってきてました。

和田 今でも(左中間の)天井の当たった箇所には目印がありますもんね。同じ人間が打ったとは思えないようなところに。

カブレラの年度別成績

カブレラの年度別成績

小島 怪物の話はやめて人間の話に戻しましょう(笑い)。和田さんが中日でプレーしていた時はブランコ、ウッズも打ちましたよね。でも彼らは和田さんが後ろにいたから楽だったんじゃないですか? 選球眼がカブレラほど良くなかったですし、内角の速い球に弱点があった。

和田 自分で言うのもなんだけど、それはあったかも。中日の時はスタメンオーダーを見て、ひそかに「俺が打たなきゃ勝てない」って思ってた(笑い)。でも、彼らも「強打者」でしたよ。とにかく広いナゴヤドームでホームランを打つのは難しかったから、長距離砲は苦しんだ。僕は長距離砲ってタイプじゃなかったから。長距離寄りの中距離打者って感じかなぁ。

小島 まさにそんな感じですね。狙い球を絞るとか、ヤマを張って1発を狙うとかでもないですし、ちょこんと当ててヒットを狙うとかもなかった。マン振りするけど、三振が少ない。特に追い込まれてからが強かったイメージがあります。追い込まれた時は、バッティングを変えたりしていたんですか? いい打者は、追い込まれてから簡単にアウトにならないですよね。

和田 それが、カウントによってバッティングを変えるとか、あんまりなくて。打席の中では強く振ることと、見逃し三振だけはしないように心掛けてました。不器用なんですよ。狙い球を絞ったり、ヤマを張ったりも、たまにやっていたんですがいい思いをした記憶がない。狙い球は外れてばっかだった(笑い)。その辺のセンスないんです。

ヤクルト戦で同点の左越え2点本塁打を放つ和田一浩=2010年4月21日

ヤクルト戦で同点の左越え2点本塁打を放つ和田一浩=2010年4月21日

小島 確かに、いつでも打つポイントが近かったから、追い込まれてもバッティングを変える必要がないのかもしれませんね。それにヤマを張っているような印象もなかった。ストライクゾーンの球は、何でも打ちにいくイメージが強かった。

和田 そうなんですよ。スライダーにヤマを張ったりすると、とんでもないボール球のスライダーも手を出しちゃう。普通、変化球にヤマを張ると真っすぐに手が出なくなると言いますが、そういう時も真っすぐだと振っちゃうタイプ(笑い)。パブロフの犬みたいに条件反射ってやつですね。

小島 キャッチャー出身の打者は、自分で配球を組み立てたりするからヤマを張るタイプが多いと思うんですが、和田さんは違いましたね。

和田 だから、さっきも言ったようにセンスがない。そこら辺の対応力があったら、もっと打ててました。いろいろと考えてやっていたんですが、できないことが多かったですねぇ(笑い)。

小島 センスがなくても強打者でいられる秘訣(ひけつ)は、次回にお聞きします。

◆05年カブレラの特大弾 6月3日横浜戦(インボイス西武=現メットライフドーム)の2回、三浦大輔から放った打球は左翼スタンド頭上の天井に直撃。跳ね返った打球がグラウンド内に落下するも、審判団の協議の結果、球場ルールによって本塁打と認定された。ベンチで見ていた伊東監督は「度肝を抜かれた。(01年の170メートル弾より)はるかに飛んでいるよ」と証言。推定飛距離は180メートルとされ、打球が直撃した鉄骨部分に記念プレートが取り付けられた。

◆和田一浩(わだ・かずひろ)1972年(昭47)6月19日生まれ。県岐阜商―東北福祉大―神戸製鋼を経て、96年ドラフト4位で西武入団。

捕手から外野手に転向して、打撃が開花。05年首位打者、最多安打。07年オフFAで中日移籍。10年セ・リーグ最年長MVP、最高出塁率。15年2000安打を達成し、引退。ベストナイン6度。通算2050安打、319本塁打、1081打点、打率3割3厘。右投げ右打ち。愛称は「ベンちゃん」。