平野佳寿の高速クイックに対応するべく、21歳の鈴木誠也はノーステップで打った 監督の緒方孝市は「神ってるよな」と認めた―

カブスの鈴木誠也外野手。醸し出す「根っからの陽」に、朝から元気をもらう方も多いのではないでしょうか。2016年の流行語大賞「神ってる」がサラッと誕生する瞬間、スラッガーとして覚せいしていく胎動を中心にまとめてみました。(年齢、所属などは掲載当時)

傑作選

日刊スポーツ

広島鈴木誠也外野手(21)が、2試合連続となるサヨナラアーチをかけた。2点を追う9回1死一、三塁、オリックス平野から左翼席に逆転3ラン。前日17日にも延長12回でサヨナラ2ランを放っており、2試合続けての劇的弾はプロ野球10人目の快挙だ。チームを今季最長の5連勝に導き、2位中日とは今季最大の6ゲーム差。神懸かった広島が首位を突っ走っている。

★2016年6月18日 2試合連続サヨナラ本塁打

鳥肌ものの2戦連続サヨナラ弾は、2点を追う9回1死一、三塁で飛び出した。鈴木の放った大打球は、真っ赤に染まった左翼スタンドに舞い降りた。オリックス平野のフォークに「食らいつきました」。神懸かり的な一撃だった。

▶広島鈴木が17日オリックス戦に続きサヨナラ本塁打。2試合連続サヨナラ本塁打は12年バルディリス(オリックス)以来、プロ野球10人目。広島では84年長嶋以来32年ぶり2人目となった。交流戦では11年平田(中日)に次いで2人目。鈴木は21歳10カ月で、前記長嶋の22歳10カ月を上回り史上最年少でマークした。

連日のお立ち台では「最高です」を連呼した。

「うれしいというか、僕も興奮していて、あまり覚えていません。奇跡です。抜けたフォークだった。うれしいのか、分からない。怖いです」

動物的な目で、獲物を狙っていた。相手は1秒0台前半のクイックで150キロの直球を投げ込んでくる平野。足を上げていたのでは対応できない。

前日の9回に、三ゴロに倒れた残像があった。とっさの判断でノーステップで打った。「究極というか。とにかく食らいつくというだけ」。ありがちな「自分のスイング」。鈴木はそんな次元で戦っていなかった。

ロッテ角中や清田は追い込まれるとノーステップ打法を使う。鈴木はその映像を見て感じていた。「正直、勇気がいることだと思う」。

初めて打ったのは4月29日の中日戦(マツダスタジアム)。チェンジアップが武器の若松に、とっさに出た。「とても対応できないと思った。それがいい結果になった」。前日もノーステップで放り込んでいた。怖さがなくなり、迷いはなかった。

前日は延長12回にサヨナラ本塁打。広島ではリーグ優勝した84年の長嶋以来2人目の快挙だった。緒方監督も「いや、本当にね。神懸かっているよ。今どきの言葉で言うなら、神ってるよな」と興奮冷めやらぬ様子。紛れもないスターも誕生し今季最長の5連勝を飾った。

貯金はついに10となり、2位中日と6ゲーム差。この強さはもう、奇跡ではない。

★2016年7月15、16日 球宴初出場の初々しき手記

【第1戦】初めての球宴は緊張の連続です。でも、緒方監督に「神ってる」と表現していただいたおかげで、他球団の先輩方からも「神ってる誠也」と話しかけてもらいました。

キクさん(菊池)に促されて、円陣の声だしもさせてもらいました。緊張しましたが、山田さん、筒香さんたちの打撃、ルーティンを見られるのがとてもうれしいです。

最近、朝起きたら山田さんになっていたらいいなと本気で思っています。言葉は悪いかもしれませんが、山田さんはバケモノですよ。ホームランダービーを見ても、やっぱりおかしいですもん。最近は山田さんと比較されることがあるのですが、正直やめてほしいです。全然まだまだなので。

打席に入ったときの空気感が特別なんです。タイミングは全部合ってるし、絶対打つじゃん、って思います。右翼で守っていても怖さを感じます。

■山田哲人への憧憬

勝手に目標にさせてもらっていますが、意識できる存在ではありません。同じセ・リーグに、そんな右打者がいることはすごくうれしいです。

今の成績でいろいろ言ってくれる方も多いのですが、山田さんの成績を見て下さいよって思います。それに比べたら、僕の成績なんてしょうもないです。こんな成績で騒がれても、うれしくありません。

第1戦の試合前、鈴木(左)は山田と話す

第1戦の試合前、鈴木(左)は山田と話す

今季は先発で使ってもらう機会が増えましたが、レギュラーなんてさらさら思っていません。山田さんのように3年連続であれくらいの成績を残せたら、レギュラー。代わりがいない選手が、レギュラーだと思うんです。僕の代わりなんていくらでもいるし、危機感を持っています。

僕は人の打撃を見るのが好きです。ひまがあれば動画サイトを見てます。メジャーリーガーには、こんなフォームで打てるんだっていう選手もいるのでおもしろい。

ただ山田さんも筒香さんもそうですが、外国人選手でも、好打者には共通点があります。それは、トップの位置が変わらないこと。明日は「神ってる」と緒方監督にほめてもらった打席を含めて、打撃の話をしたいと思います。(つづく)

■トップの位置以外は何でもいい

【第2戦】今季、打撃を一から考えてやってきました。そのなかで悟ったのが、トップの重要性でした。

山田さん、筒香さん、外国人を含めて好打者はみんな一緒。トップが深ければ深いほど、いい打者だと感じています。極端に言うと構えもフォームもめちゃくちゃでもいいんです。

「神ってる」と表現された本塁打もノーステップで打ちました。自分にとってはトップの位置以外は、それくらいどうでもいいことなんです。

今はまた違う感覚があります。バットの重さを感じながら振るのではなく、バットに振らされているという感覚。

9日の阪神戦(甲子園)での本塁打で出た感触でした。イメージはゆっくりタイミングをとって、ゆっくり振る。トス打撃の延長のような感じです。きっかけになるような一打ではありませんが、今でもあの1球を覚えています。

左中間へ2ランを放つ鈴木。この感覚が飛躍のルーツに=2016年7月9日

左中間へ2ランを放つ鈴木。この感覚が飛躍のルーツに=2016年7月9日

たくさんのことを学んで、胸にとどめておいた1月の合同自主トレ。最近になってソフトバンク内川さんが言っていた感覚が出てきたかなと思う部分もあります。

明日18日から始まる後半戦では、ちょっとでもチームを勢いづけられるプレーができればと思っています。ヒットを打つ、本塁打を打つというのは結果。それはどうなるか分からないですが、過程は自分の力で変えられる。僕はまだ若いので「あいつがこういうプレーをしたら、俺たちもやらないといけない」と思わせる姿を見せたいです。

昨季は怒られてばかりだったので、緒方監督に「神ってる」とほめられたことが素直にうれしかったです。今、何をしても「神ってる」とまとめられるのは、ある意味楽かもしれませんね。一発屋と思われた方がいいですから。

でも「神ってる」という言葉はあくまで監督発信なので、僕のことで「神ってる」と使われているような気がするのですが…。僕は「最高でーす ! 」を推していきますよ。

★2021年11月17日 名付け親・緒方孝市氏からのエール

鈴木誠也選手の大リーグ挑戦を応援したい。現役、指導者時代を通じてこれまで多くの選手を見てきたが、まさにホップ・ステップ・ジャンプというように1年ごとに伸びていく選手は誠也以外に見たことがない。

監督時代、その活躍で「神ってる」と言ったが、本当に3連覇をもたらす力になってくれた。

緒方監督は鈴木の能力を早期に見抜き、鍛え上げた

緒方監督は鈴木の能力を早期に見抜き、鍛え上げた

高校時代はエースで4番だった。実際、大谷のように二刀流すら可能なレベルの選手だと思っていた。それはできなかったけれど、打者としては大谷を超え、メジャーで本塁打王を獲得してほしい。そう願っているし、事実、誠也ならできると思っている。

技術、力もそうだが、あんなに負けず嫌いな選手を見たこともない。4番にして、苦しい時期もあっただろうが一切、泣き言は言わなかった。

同時に人の話を聞く柔軟性も持っている。結果が出なくてベンチで暴れたとき「裏でやれ。子どもも見てる」と指導したら、すぐに理解し、そんな様子は見せなくなった。

移籍が実現すれば、カープとしては寂しくなるかもしれない。しかし誰かが抜ければ、誰かが出てくるのがカープの伝統。チームとしてのピンチを、若い選手でチャンスに変えていってほしい。(日刊スポーツ評論家)